大樹町の航空宇宙産業基地構想にかかわる町民意識と整備課題

小田島 敏朗[ 北海道新聞情報研究所/調査研究部長]
伊藤  献一[ 北海道大学大学院工学研究科/教授]
永田  晴紀[ 北海道大学大学院工学研究科/助教授]
溝端  一秀[ 室蘭工業大学機械システム工学科/講師]
吉元  勝雄[ 日立製作所北海道支社 ニュービジネス営業推進グループ/部長代理]
石原  哲也[ エア・ウォータ北海道総支社 産業関連グループ/課長]
酒森   清[ 大樹町スペース研究会/会長]
大水  道広[ 北海道新聞情報研究所/専任研究員]
僧都  儀尚[ 北海道新聞情報研究所/専任研究員]
背景・目的

十勝管内大樹町が1995年、「宇宙のまちづくり」を目指して造成した多目的航空公園の滑走路(延長1キロ)、幅60メートル)では2000年度末までに、宇宙開発事業団の月面着陸装置実験など約20回の航空宇宙関連実験が行なわれている。本調査は同町の航空宇宙産業基地構想の実現に向け、大型プロジェクトの推進に欠かせない地域住民の意識調査を行なう一方、多目的航空公園を実験場として使った関係機関やメーカーの評価を聴取することを通じて基地構想の実現の可能性を探るものである。

内容・方法

調査に当たっては北海道新聞情報研究所が呼びかけ人となり、同公園で再利用型小型ロケットの打ち上げ実験を計画している北大大学院工学研究科の伊藤献一教授ら「ハイブリッドロケット研究会」のメンバーのほか、北海道の航空宇宙産業基地構想を実現させるべく側面から支援している「航空宇宙友の会」の産業界の会員や地元町民団体の参加を得て産学共同のプロジェクトを立ち挙げた。
 調査では2000年8月に南十勝地区の住民500人を対象に、航空宇宙産業基地構想に対する電話調査を初めて本格的に行なったほか、大樹町で実験を行なった宇宙開発事業団や航空宇宙技術研究所など6機関から使用上の評価や問題点、今後の整備課題などをアンケート形式で調べた。また、地元関係者の聞き取り調査を行なったほか、航空宇宙関係の有識者にインタビューを行なって、大樹町の基地構想の展望と課題をまとめた。

結果・成果

2000年8月19日から21日にかけて行われた電話調査では、大樹町で300人、周辺の広尾町、忠類、更別、中札内各村で200人の計500人の男女(20歳以上)を無作為で選び、17の質問を電話で聞いた。このうち、各種実験の舞台となっている大樹町多目的公園については、85.4%が「知っている」と回答。「同公園は南十勝にとってどんな存在か」との問いに対しては「貴重な存在だが、南十勝の発展には貢献していない」(32.0%)がトップだったものの、わずかな差で「地域の発展にとって貴重な存在」が続いた。宇宙基地誘致運動の現状については「大変よい」「まあよい」を合わせた肯定派が61.2%で、否定派(7.6%)を大きく引き離した。誘致運動が地域活性化に及ぼす影響についても「活性化につながっている」とする肯定派が47.0%と半数に迫り、否定派(36.2%)を約10ポイント上回り、地域活性化への期待の高さを浮き彫りにした。
また、大樹町の漁協や農協組合長らから行なった聞き取り調査では、「長い目で構想の実現を見守りたい」(福岡・大樹スペース研究会幹事)など肯定的な声が多かったが、町に誘致活動に関する積極的なPRを求める意見も聞かれた。
一方、多目的航空公園を実験場として使った関係機関のアンケート調査は宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所、宇宙科学研究所、無人宇宙実験システム研究開発機構、富士重工、IHIエアロスペースの6機関(法人)を対象に、同年8月下旬に6項目の調査票を配布、9月中旬までに回収して行われた。調査によると、実験場として大樹町を選択した理由は「広く平坦な実験領域が確保できる」「滑走路、格納庫のインフラがある」などで、実験場としての評価では「安全領域が十分確保でき、多目的航空公園の実験施設整備が進み、実験への官民あげての協力により実験環境が整ってきた」と高い評価が多く、今後の実験可能性に付いても「利用価値は高く、今後も航空宇宙観系の実験場として利用される」との前向きな評価が大勢を占めた。
実験場としても今後の要望では、「滑走路は南北の余裕がほしい」「滑走路長も、ジェット機クラスが利用できることが望ましい」「航空機は野外駐機となり、夜間の委託警備料に費用がかさむ」などの意見があった。宿泊施設などの充実や、同町に組織的なサポート体制の充実を求める声が聞かれたが、調査の結果、一回の実験当たりで約1500万円が町内で消費されるなど、大きな経済波及効果があったことも確認された。

今後の展開

調査が終盤を迎えていた2001年度末、文部科学省と郵政省(現総務省総合通信基盤局)がミレニアムプロジェクトとして推進する「成層圏プラットフォーム」の2003年度からの実験場に大樹町が選ばれることが決まった。無人飛行船による放送通信・地球観測システムを構築しようという国家的な試み。広大な実験用地を提供できる同町の航空宇宙基地としての優位性が高く評価された結果で、同町の航空宇宙産業基地構想が実現に向けて大きく前進する展開となっている。