燃料電池等次世代家庭用エネルギーシステム導入可能性調査

原   勲[ (社)北海道未来総合研究所/専務理事・所長]
小林 英嗣[ 北海道大学大学院工学研究科/教授]
市川  勝[ 北海道大学触媒化学研究センター/教授]
横川  誠[ 北海道ガス(株)エネルギー営業部/係長]
本間 工士[ 北海道電力(株)総合研究所/新エネ・新素材グループリーダー]
三輪 啓樹[ 土屋ホーム(株)技術本部設計部/設計課長]
清水 友康[ (社)北海道未来総合研究所/主任研究員]
背景・目的

北海道は積雪寒冷で冬季の暖房需要が高い地域特性等から、全国に比べて石油依存度が高く家庭でのエネルギー使用量も全国平均を上回っている。エネルギー・地球環境問題の観点からも、産業、運輸、民生各部門でエネルギーの高効率利用が求められている。家庭に導入可能なエネルギー高効率利用システムとしては、燃料電池が最近注目を集めており積極的な開発が進められている。そこで本研究では、燃料電池等エネルギー高効率利用システムの開発動向、消費者の導入意向等を把握するとともに、このようなシステムが家庭に導入された場合の効果をシミュレーションすることによって、次世代家庭用エネルギーシステムの本道への導入可能性を明らかにし、北海道の特性に合致したシステムの開発に資することを目的とする。

内容・方法

本研究では、1.エネルギー高効率利用システムとしてコージェネレーションを中心に考察する、2.コージェネレーションシステムの燃料としてはクリーンで埋蔵量が豊富な道産の天然ガスを中心に考察する、3.既に天然ガスが供給されている札幌市の一般家庭を想定する、の3点を前提条件として以下の検討を行う。
1.燃料電池等家庭用に導入可能なシステムの開発動向の把握(文献調査、ヒアリング調査)
2.一般家庭におけるエネルギー需要動向把握(文献調査)
3.家庭のエネルギー使用状況、コージェネレーション等システム導入に関する意識把握(アンケート調査)
4.モデル家庭へのエネルギーシステム導入に関するシミュレーション
5.普及へ向けた問題点・課題の整理と展開方策
本調査のとりまとめにあたっては産学からなる「次世代家庭用エネルギーシステム導入検討研究会」を設置し検討を行った。

結果・成果

今回のアンケート調査の回答者は総じてエネルギー・地球環境問題に関心が高く、北海道の石油依存度の高さについても努力が必要と考えている。そのための手段として、太陽光や風力といった自然エネルギーへの期待が高く、天然ガスの利用も比較的期待が大きい。一方で、エネルギーの高効率利用システムとして最近注目を集めているコージェネレーションシステムや燃料電池の認知度は決して高いとはいえず、開発サイド、研究サイドとの意識のギャップは大きい。しかし、今回示した家庭用燃料電池モデルにおいて、新改築時に導入を検討する家庭が存在することは確かであり、将来商用化が実現した際には、その導入意義やメリット・デメリット等十分な情報提供・PRを図ることによって、家庭への普及拡大の可能性は十分にあるものと考えられる。
家庭用燃料電池システム導入モデルに対するシミュレーション結果として、省エネルギー面からは年間の一次エネルギー消費量が減少することが明らかとなった。減少率は最大で20%を超え、適正な規模の燃料電池システムを導入することで、全国的に高い北海道の家庭用エネルギー消費量の減少と石油依存度の低下に寄与するものと思われる。
コストメリット面からは、従来の灯油と商用電力の組み合わせに比べて、年間エネルギーコストが減少することが明らかとなった。今回のケースでは最大で年間4万円弱のコストダウンが可能であり、ヒアリング調査で各社が示した燃料電池システムの目標販売価格(本体30〜50万円/kW)を10年程度で回収できる計算になった。ただし、実際には工事費やメンテナンス費が別途必要であり、導入価格自体はもっと高くなることが予想されるため10年では回収できない可能性もある。また、燃料電池システムの耐用年数が10年以下だった場合はやはり費用の回収が出来ないことになる。そのため、導入拡大のためにはシステムのさらなるコストダウンや何らかの補助制度の必要があるだろう。
環境特性面では一次エネルギー消費量の削減と見合う形でCO2、NOX、SOXの発生量が減少することが明らかとなった。特にCO2削減量は最大で年間418kg-C(炭素換算)、削減率は25%と大きい。また、化石エネルギーのなかでは比較的クリーンな天然ガスを利用していることから、NOX、SOXの発生量はごくわずかとなる。このように、環境面からも燃料電池システム導入の意義は大きい。なお、今回のモデルでは売電を行わず必要な電力需要にあわせて運転することとしており、その場合、発電容量は750W程度が最適となった。

今後の展開

燃料電池等家庭用エネルギー高効率利用システムを北海道に導入する意義・可能性は十分にあり、今後は北海道の地域特性を踏まえた北海道仕様のシステム開発を道内外の大学、公設試験場等研究機関と、エネルギー業界、住宅メーカー、機器メーカー、ソフトメーカー等民間との共同で進めていくことが肝要である。また、培った技術力やノウハウを利用して、北海道から全国、世界へ進出するようなベンチャー企業が設立されることを期待したい。
また、システムのさらなるコストダウンや天然ガス、水素を運ぶエネルギー供給基盤の整備、国・道・自治体の導入助成、規制緩和や新しい制度の整備、消費者等への啓発活動を産官学が連携して行うことによって、将来、燃料電池等家庭用高効率エネルギーシステムが北海道に広く普及していくことが期待される。