馬産業の経済波及効果と馬クラスターによる地域活性化 −日高地域における軽種馬関連産業の構造分析−

岩崎  徹[ 札幌大学経済学部/教授]
志賀 永一[ 北海道大学大学院農学研究科生物資源生産学専攻/助教授]
古林 英一[ 北海学園大学経済学部/教授]
川越 敏示[ 日高軽種馬農業協同組合生産事業部/部長]
岡本 邦彦[ 日高軽種馬農業協同組合総務部総務課/主任]
小山 良太[ 北海道大学大学院農学研究科生物資源生産学科/博士課程]
背景・目的

軽種馬産業は、その生産と関連産業を含めると経済規模においても雇用効果においても北海道経済に多大な貢献をしてきた。しかし、近年、競馬の国際化により活馬輸入が増加したことやバブル経済の崩壊により、空前の不況に瀕している。このような状況に対し様々な馬産振興策がなされてきたが、軽種馬生産地域の経済構造に関する基礎的な研究の不足から、適切な打開策を打ち出せずにいる。本研究は、馬産地振興を図るための基礎研究として日高地域の馬産業構造の解明とその波及メカニズムの解析、地域経済との関わりを分析する。

内容・方法

日高の軽種馬生産の全国に対する占有割合は、生産者数の約65%、生産頭数の約73%、種牡馬の約69%、繁殖牝馬の71%に達する。さらに日高地方には、産地育成施設、セリ市場などの「公的」施設が集中し、また、軽種馬生産・育成・販売に関わる様々な関連産業が集積している。日高地方は軽種馬産業へ地域特化することにより、比較優位な地域条件を創出しているのである。本研究は、まず、日本における軽種馬産業の地域構造と日高地域の産業構造を明らかにし、次いで日高地方における馬産業相互の関連を分析する。そして、日高地方における軽種馬生産・流通・育成の構造と経済規模を推計し、軽種馬生産に直接関わる関連産業の構造分析と軽種馬産業の市場規模を推計し、最後に総括と展望を行う。

結果・成果

本研究は、各産業の事業構造と市場規模を、1.金融市場、2.労働市場、3.生産財市場、4.サービス、5.生産物市場に分け、事業主体ごとの分析を行った。その結果は次のとおりである。
1.金融市場
日高管内の軽種馬貸付は総額で412億円であり、うち市中銀行(6行)が119億円(29.0%)、農協系統(8農協)が292億円(71.0%)となっている。市中銀行は総貸付額の11.2%を、農協系統は68.2%を軽種馬産業へ供給している。
2.労働市場
日高では軽種馬関連産業及び関連団体においても多数の軽種馬関連の雇用がなされているが、生産・育成牧場のみの雇用規模でも、生産者1,286戸に対し3,889人の雇用を創出しており、育成段階では1,399人の常雇が存在している。全体で、1戸平均6.7人、総数9,271人の就業者が存在しており、他農業と比べ極めて高い雇用効果が認められる。
3.生産財市場
軽種馬生産・飼養管理に関わる物・財の市場規模を推計すると、種付=139億円、繁殖牝馬=18億円、生産資材=22億円、馬具=2億円、総額で182億円の市場規模となっている。
4. サービス
軽種馬生産、飼養管理に関わるサービス部門の市場規模を推計すると、獣医・診療=8.7億円、装蹄・削蹄=3.8億円、馬輸送=17億円、育成=56億円、共済・保険=8.2億円であり、総額で95億円となっている。
5. 生産物市場
市場販売は2000年の3世代合計の実数値で146億円であり、庭先販売は、1世代推計値で219億円となっている。総額で、366億円の規模となっている。
生産財・サービスの市場規模は279億円であり、生産物の市場規模361億円と単純に合計すると640億円となっており、関連産業への波及効果の大きさが示される。日高地方は、軽種馬産業が集積・形成し、馬産地として成熟した段階に到達していることが示唆される。軽種馬は、経済波及効果が大きい品目であり、生産→販売という直線的な流れに、様々な関連産業がクラスター的に加わることで、一つの産業を形成しているのである。

今後の展開

軽種馬の経済波及効果は他の農業地帯に比べ格段に大きい。ここでは、馬産業クラスター分析を中心に、総合的に地域振興を図る馬産を核とした内発的発展方向を有効に機能させるための基礎研究を行った。今後は、広義の関連産業についての調査・研究、また、産業連関分析を通じた関連産業相互の分析、軽種馬の他地域、他の農業地帯との比較を行い、さらに総合的な研究を深めたい。