人工股関節の進歩により、股関節疾患の治療は格段に進歩したが、人工関節の弛みの原因に関してはいまだ解決していない。我々は過去10年間に渡り生体医工学的に研究を重ね、現在使用されている機種の多くは外国製で日本人の骨格に十分適合していない。製品の加工精度に問題があるなどの点を明らかにした。我々は平成10年10月から日本人の体型に合い、加工精度に優れ耐久性のよい人工股関節を研究している。本研究では日本人の股関節形態を詳細に解明し、日本人の体型に合った人工股関節の開発を目的とし、製品の設計を行う。 内容・方法 DICOMフォーマットで保存したCTデータを、いくつかの画像解析ソフトを経て、三次元CADであるPro ENGINEER(Parametric Technology CO.)上にて各種計測を行った。計測方法は、最初にPro ENGINEER上にて大腿骨峡部を決定し、次いで計測の基となる軸を作製する。今回は人工股関節のサイズ設計の目的を考慮し、人工股関節の挿入されるステム軸を想定し、大腿骨峡部と小転子頂部から遠位20mm断面の重心を結んだ直線を軸として使用した。次いで小転子頂部、峡部にステム軸に対して垂直となる断面を作製し、さらに小転子頂部断面を近位方向と遠位方向へそれぞれ20mm平行移動させて各断面を制作した。今回計測を行った項目は、前捻角、骨切断面上四角形前後長、峡部位置、内側長さ、内側長さ比、峡部前後・内外長である。これらの計測データから、股関節骨格形態を詳細に検討し、日本人の体型に適合する理想的な人工股関節の開発を行う。 結果・成果 日本人に多い二次性股関節症患者の大腿骨は、内側傾斜が急峻であるなどの変形が報告されており、外国製のステムでは十分な適合性が得られないことがあり、形状の検討が必要とされてきた。また、ステム断面形状の違いがセメント応力に影響を及ぼすことが報告されており、セメント応力の最大値ができるだけ低くなるようなステム形状の検討が必要とされている。以上のことをふまえ、以前より我々は三次元有限要素法を用い、セメントの応力環境の立場から、ステム近位内側をどの程度ストレートな形状にしてもよいか、また、ステム断面形状はどのような寸法がよいかの検討を有限要素法を用い解析し、ハリスプレコートステムのMサイズを改良したmodify Mサイズステムを設計した。今回行った47股の計測結果では、峡部位置は小転子から平均値115.4mmであった。この結果より、骨切り部が小転子上約20mmであることを考慮し、modify Mサイズステムのステム長は130mmとした。また大腿骨計測の内側長さ比の平均値は2.0であり、modify Mサイズステムにおける内側長さ比2.0と一致しており、近位内側のカーブの曲率が急峡である日本人の二次性股関節症患者の大腿骨に対応した形状であることがわかる。遠位断面ではハリスプレコートのMサイズと比べ、modify Mサイズステムを挿入した場合のセメント厚は、前後方向で約17%の減少、内外方向で約36%増加することになる。また大腿骨近位は骨切断面上四角形前後長の平均が12.6mmであるのに対し、modify Mサイズステムの前後長は12mmであるが、これらは先に述べたFEMの解析で、近位断面の前後側と、遠位断面の前後側ではセメントの厚さを薄く、遠位断面の内外側では厚くするような形状が、セメント応力を減少させる結果を反映した結果である。以上のことから、modify MサイズステムはハリスプレコートのMサイズと比べ、FEMの解析結果を反映し、かつ測定の平均値により適合した形態をしていることがわかった。更にmodify Mサイズステムを基に、大腿骨計測結果よりサイズバリエーションを検討した。ステムのサイズを変更する際は、オフセット、ステム軸の骨切断面の中心点、ステム長と中央断面下の長さの比がそれぞれ一定になるように行い、ステム長の変化に伴う断面形状の変化は、最適化計算で求めた形状をなるべく相似を保つように対応した。その結果、ステム長サイズバリエーションは100mmから150mmまで10mm刻みで、すなわちmodify Mサイズステムより小さいサイズが3つ、大 今後の展開 撮影した大腿骨CTは実際に股関節の手術を受ける患者の貴重なデータである。今後更に計測数を増やすことによって、日本人の体型に合った人工股関節の開発に向け、股関節骨格形態を詳細に記録した信頼性の高いデータとして活用される。実用化された場合、歩行中の疼痛軽減が期待され、QOLの改善が期待される。また、これらの人工股関節は耐用年数の向上が期待され、それにより人工股関節再置換術が減少した場合、近年増加が問題とされる医療費の低減にも一役を買うと考えられる。1セット約100万円の人工股関節が年間100〜150セット程度使用されると予想され、経済効果が期待される。 |