養殖コンブ仮根を機能性食品素材として利用する研究開発
西澤 信[ |
共成製薬株式会社/恵庭研究開発室長] |
山岸 喬[ |
北見工業大学/留学生相談室長] |
高橋 延昭[ |
札幌医科大学附属臨海研究所/副所長] |
吉岡 武也[ |
北海道立工業技術センター研究開発部/科長] |
加藤 聡[ |
共成製薬(株)恵庭研究開発室/課長代理] |
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背景・目的
コンブは北海道の主要水産品であり、現在では道南地方、利尻、羅臼で養殖コンブが生産されている。養殖コンブ発祥の地・南茅部町では年間1,500〜2,000tの仮根が廃棄物として処理されている。
これまでの研究で仮根にはミネラルが豊富に含まれ、その組成が藻体とは異なりカリウムの比率が高いことを明らかにした。さらに、平成11年度には科学技術振興事業団「独創的研究成果育成事業」により、養殖コンブ仮根は機能性のある新規食品素材となりうることが判明した。
本研究開発では、養殖コンブ仮根の機能性をさらに詳細に解明する目的で生理活性成分の探索・同定を行うとともに、新規食品素材として供給するため収集・乾燥システムを確立することを目的とした。
内容・方法
(1) 機能性の解明と有用性の確認
仮根の脂溶性成分分画には乳ガン細胞(MCF-7)の増殖を抑制する成分があることが判明しているので、活性成分の分離・同定、構造決定を目指す。
また、得られた試作品についてミネラルなどの成分を分析して有用性を確認する。
(2) 仮根の収集・乾燥方法の検討
昨年度の経緯をもとに、南茅部町、漁協、処理業者などと協議して養殖コンブ収穫時に効率的に仮根を収集・乾燥する方法を検討する。
(3) 製造工程の検討
食品素材として利用するために必要な製造工程を検討し、安定して製造できる工程の確立を目指す。
結果・成果
(1) 機能性の解明と有用性の確認
1.乳ガン細胞(MCF-7)の増殖抑制作用
養殖コンブ仮根のアセトン(またはアセトン−水)抽出物にはMCF-7細胞増殖抑制作用があることを明らかにしているが、本研究でその活性物質の特定を行った。抽出物をヘキサンとメタノールで分配したヘキサン可溶部を各種クロマトグラムを用いて探索したところ、活性成分としてergosta-4,24(28)-dien-3-one、stigmasta-4,24(28)-dien-3-oneおよびstigmasta-4,24(28)-dien-3,6-dioneの3種の酸化型ステロール(ステロン)を単離・同定した。これらは10μg/mlでMCF-7細胞の増殖をそれぞれ62%、22%および79%阻害した。
2.養殖コンブ仮根中のミネラル含有量
養殖コンブ仮根10試料のミネラル含有量を調査した結果、ナトリウム、カリウム含量はそれぞれ3.06±0.23g/100g、11.48±2.37g/100gであり、仮根はカリウムを多く含むことが確認された。
(2) 仮根の収集・乾燥方法の検討
1.仮根の収集方法
1999年度は、(株)ばんけいリサイクルセンターに仮根の収集を依頼した。しかし、仮根の輸送に時間がかかることと、異物混入の可能性があることから、2000年度は漁業協同組合から直接乾燥工場へ搬送するシステムを構築した。このシステムにより、1999年度に比べて新鮮な仮根を入手することができた。
2.乾燥方法
乾燥は棚式循環型乾燥機で行った。粗砕した仮根約2.7tを乾燥ネットに乗せて熱風入口温度80℃で24時間以上乾燥した。乾燥後の重量は約300kg。また、尾札部漁協の組合員の協力により、コンブ乾燥時に同時に乾燥する方法を検討した結果、この方法でも乾燥可能なことがわかった。(約10kg/日/組合員)
(3) 製造工程の検討
1.尾札部漁協で製造した乾燥品の2次乾燥
尾札部漁協で乾燥した仮根の水分含有量は13〜15%であるため、2次乾燥が必要であることがわかった。これを棚式循環型乾燥機で乾燥すると水分含量は8〜10%になる。熱風入口温度60℃で約18時間必要であり、1バッチの処理量は約300kgであった。
2.滅菌・粉砕工程
上記の方法で製造した粗砕品は一般生菌などが多いことがわかったので、滅菌法の種々検討をした。その結果、一般生菌数は5.2×102〜3.0×103、大腸菌群は陰性になり、食品素材として流通させることが可能となった。
これを、奈良式粉砕機で2段粉砕(1段目は1mm、2段目は0.2mmスクリーン)して、試作品を得た。試作品の一般生菌数は8.8×102〜9.1×102、大腸菌群とサルモネラ菌は陰性であり、エンテロトキシンも検出されなかった。
今後の展開
(1) 機能性の解明
ヘキサン可溶部中のMCF-7増殖抑制成分の単離同定を継続するとともに、さらに他の活性試験を行って、仮根の機能性を追求して、付加価値を高める。
(2) 仮根の収集・乾燥方法
尾札部漁協など南茅部町の漁業の協力を得て、コンブ乾燥室での1次乾燥の増加を目指す。この方法が定着すると漁業者のメリットがでる。さらに、大量に集荷する場合を想定して、新たな集荷方法を検討する。
(3) 製造工程の検討
現在よりも粒度の細かい製品を製造するために、粉砕方法の検討をすることにより、より付加価値の高い製品を目指す。
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