廃プラスチックの水素・化学原料転換リサイクル技術開発

上道 芳夫[ 室蘭工業大学工学部応用化学科/助教授]
杉岡 正敏[ 室蘭工業大学工学部応用化学科/教授]
菖蒲 明己[ 室蘭工業大学工学部応用化学科/教授]
綾部 統夫[ 石川島播磨重工業(株)技術開発本部基盤技術研究所/次長]
伊東 正皓[ 石川島播磨重工業(株)技術開発本部機械プラント開発センター/主任]
背景・目的

2000年4月から容器包装リサイクル法が完全施行されたことに伴い、大量に回収される廃プラスチックを再資源化する技術の多様化と高効率化は緊急の課題である。特に、循環型経済社会システムの構築に寄与する新しいリサイクル技術の開発が望まれている。本研究は、廃プラスチックの約50%を占めるポリオレフィンをガリウム触媒存在下で分解し、クリーンエネルギーとして注目されている水素と石油化学工業原料として有用な芳香族炭化水素を同時に回収する新しいケミカルリサイクル技術の確立を目的としている。

内容・方法

ポリオレフィン(高密度・低密度ポリエチレン、ポリプロピレン)の水素および芳香族炭化水素への分解に対する種々のGa触媒の活性、選択性を検討した。使用した触媒はプロトン型Ga−シリケート(H-Ga-Si、Si/Ga=25)、Ga(4wt%)/HZSM-5(Si/Al=15)、Ga(4wt%)/SiO2-Al2O3などであるが、最も高い活性を示したH-Ga-Si触媒では活性の持続性とポリオレフィン構造の影響についても検討した。
ポリオレフィンの分解は固定床流通式反応装置を使用して、反応温度400−550℃、接触時間(W/F;W=触媒重量、F=ポリオレフィン供給速度)10 g-cat・min/g-polymerの条件で行った。活性持続性を検討する場合は、同一触媒を使用して15−30分間の反応を繰り返した。分解生成物はガスと液体に分離してそれぞれをガスクロクマトグラフィーで分析した。触媒の酸性質は主にモデル反応に対する活性で評価した。

結果・成果

触媒作用を示さないガラスビーズを反応器に充填し525℃で低密度ポリエチレン(LDPE)の熱分解を行うと、生成物の80 wt%はワックス成分であり、ガスおよび液体の軽質成分は少量しか生成しなかった。これに対してH-Ga-Si触媒を用いると、LDPEの分解は著しく促進され、ガス(31%)および液体成分(69%)が選択的に得られた。特に、有用な芳香族炭化水素であるベンゼン、トルエン、キシレン(総称してBTX)を高収率(58%)で回収できた。また、液体脂肪族成分はごく少量しか生成しないため、BTXの分離精製は容易なことがわかった。芳香族生成に伴い、水素も3.5%の収率で得られた。この値はLDPEに含まれる水素の約1/4を水素ガスとして回収したことに相当する。ガス生成物中の水素濃度は高く約70vol%であった。Ga/HZSM-5触媒でも同様の結果が得られた。
H-Ga-SiはLDPEの分解において二元機能触媒として作用するものと推測される。すなわち、LDPEは主に酸点で低分子化され、生成した分解フラグメントはGaサイト上で脱水素され芳香族炭化水素が生成する機構が考えられる。脱水素環化反応の進行には高温が有利であり、BTXの収率は反応温度とともに増加した。水素の収率も高温ほど高くなったが、BTXの収率以上に大きく増加した。これは、低温では脱水素環化過程で発生した水素原子がオレフィンへ付加する水素移行反応が起こりやすいのに対し、高温になるにつれて水素分子としての脱離が促進されるためであった。H-Ga-Siを繰り返し使用しても大きな活性変化は見られず、触媒の活性持続性は高いことがわかった。
LDPEと共に、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、およびそれらの混合物の分解を行い、ポリオレフィン構造の影響を検討した。その結果、ポリオレフィンの構造は生成物の組成に反映せず、3種類のポリオレフィンから同一組成の生成物が得られた。これによって、ポリオレフィン廃棄物の組成変動を吸収するリサイクルプロセスの構築が可能なことがわかった。分解生成物の組成が原料ポリオレフィンの構造に依存しないのは、主要な中間体である不飽和成分が強酸性のH-Ga-Si触媒上で容易に異性化され、いずれのポリオレフィンの分解においても同じ組成の中間体を経て反応が進行するためであった。
以上のように本研究では、H-Ga-Siの詳細な触媒特性を明らかにするとともに、実用化リサイクルプロセスの設計に資する知見を得ることができた。

今後の展開

Ga触媒を使用してポリオレフィン廃棄物から水素と石油化学原料を選択的に回収する技術の確立は、炭酸ガスの排出削減、石油資源の節約・確保、地球環境の保全などに波及的効果を発揮し、環境と調和した循環型社会の構築に大きく貢献すると期待される。今後、スケールアップと実際の廃プラスチックによる検討を加えて、実用化プロセスの設計を行うことが重要であろう。プラントメーカー、石油化学メーカーなどと連携し技術検討を重ねながら、世界に先駆けて次世代型廃プラスチックケミカルリサイクル技術の開発を目指したい。