NO産生細胞同定用レーザー内視鏡の開発
葛西 眞一[ |
旭川医科大学医学部/教授] |
河野 透[ |
旭川医科大学外科学第二講座/講師] |
岩元 純[ |
旭川医科大学医学部看護学科/教授] |
石川 一志[ |
旭川医科大学医学部看護学科/助教授] |
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背景・目的
各種炎症性病変において増悪因子、腫瘍性病変において発癌因子として注目されている一酸化窒素NOは、ガス状物質のためNO産生細胞の同定は難しく、組織を採取して合成酵素を同定する事で代替えしてきた。最近、培養細胞において非侵襲的にNOを可視化する技術が開発され、蛍光顕微鏡下での観察が可能になった。しかし、in vivoにおける本法によるNO産生細胞の同定は未だなされていない。そこで、NO産生細胞を生体内で、非侵襲的に同定できるレーザー内視鏡システムを開発することを本研究の最終目的とする。
内容・方法
NOを産生する細胞周囲に、細胞膜を自由に通過できる特徴を持つdiaminofluorescein-2 diacethyl( DAF-2 DA)を添加すると、細胞内に入ったDAF-2 DAが細胞内のエステラーゼにより加水分解されOH 基を持つDAF-2に変換され、細胞膜透過性が消失するため細胞内に留まる。NO存在下でDAF-2のアミノ基が反応しDAF-2 Tに変化する。次に、励起波長495nmの光を照射するとDAF-2 Tは、波長515nmの緑色蛍光を放つ特徴を有している。DAF-2 T自身は細胞膜透過性が無いため蛍光を発しながら細胞内に留まり、NOが細胞内に存在していたことを示し、NOをリアルタイムで観察できる。この、技術を応用し、レーザー内視鏡を介して病変部に、DAF-2 DAを添加し、NO産生細胞をリアルタイムに観察する。DAF-2 DA自身無害で、可視光励起なので、生体成分由来の蛍光の影響が少なく、細胞にダメージを与えずに測定できる。
結果・成果
【肝臓】
(1)敗血症時における肝障害とNO産生(急性肝障害とNO産生)
エンドトキシン血症時に急性肝障害が惹起される過程において、肝臓内でNOが大量に産生され、肝臓表面からも拡散していることを報告してきた。しかし、肝臓内で産生されるNOの主たる産生細胞が、肝実質細胞である肝細胞なのかクッパー細胞など非実質細胞なのか、または、両者なのかについては未解決であった。そこで、Wistar系ラットの肝細胞ならびにクッパー細胞分離・同定を行った。生食投与群でNO産生肝細胞は5%以下であった。一方、LPS投与群では肝細胞の90%以上がNOを産生していた。クッパー細胞は生食投与群においてすでにNO産生が認められ、LPS投与量に関係なく、ほぼ全てのクッパー細胞がNOを産生していた。また、肝細胞ならびにクッパー細胞におけるNO合成酵素はいずれも誘導型であり、構成型NO合成酵素の抗体では染色されなかった。
(2) 肝硬変、慢性肝炎におけるNO産生
慢性肝炎や肝硬変をベースにして発癌する症例が多く、持続的に産生されるNOの関与が指摘されている。しかし、肝硬変、慢性肝炎の肝細胞がNOを産生している直接的な証拠はない。そこで、チオアセタマイド投与によって作成したラット慢性肝炎、肝硬変モデルにおいて細胞分離を行い、DAF-2DA法にて行った結果、正常時に比べて慢性肝炎、肝硬変へと移行するに従いNOを産生する肝細胞の割合が増加した。
【消化管】
炎症性腸疾患において、NO産生が亢進していることはすでに報告されているが、NOの役割も含めて結論が付いていない。そこで、代表的な潰瘍性大腸炎モデルであるDDS腸炎モデルラットを作成し、直腸病変部を摘出し、摘出腸管をDAF-2DA法にて検討した。その結果、NO産生は炎症に伴って浸潤してきた免疫細胞においては明らかに認められたが、陰窩を中心とした上皮細胞におけるNO産生は正常ラットでも認められたものの、それと比較して明らかな亢進はなく、むしろ抑制傾向にあった。つまり、正常大腸においてもNO産生は正常粘膜上皮で認められ、何らかの腸管粘膜の恒常性維持に生理学的作用を有している可能性が推定できた。しかし、NO産生の減少が結果なのか病因なのかは不明であり、今後の検討課題である。[ヒト手術材料による実験結果]十分なインフォームドコンセントを行った腸管切除対象症例の手術摘出腸管で検討を行った結果、正常時に陰窩においてNO産生が認められた。潰瘍性大腸炎においては、炎症に伴い浸潤してきた好中球を中心にNO産生が認められていたが、陰窩におけるNO産生の亢進は認められず、動物実験と同様な結果であった。
今後の展開
今まで全く不可能と考えられてきた、生体内で非侵襲的にNO産生細胞をリアルタイムに観察することが本研究の本質である。しかし、本研究はまだ途中の段階であり、経過中、観察された種々のNO産生細胞が産生するNOの役割について、詳細に検討することは病態生理現象解明のみならず、生命現象の根幹に触れる事象であると考えられ、新たな研究テーマとなり発展する可能性がある。日本を中心にして開発が進められてきた内視鏡分野において、新たな展開が期待できることは明白である。北海道において他県に比べて進んでいる業種の一つであるソフト開発産業においても、事業促進チャンスをもたらすものと考える。
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