海洋生物資源の複合利用による高機能魚肉タンパク質の開発
佐伯 宏樹[ |
北海道大学大学院水産科学研究科/助教授] |
澤辺 智雄[ |
北海道大学大学院水産科学研究科応用生物科学講座/助教授] |
谷山 英夫[ |
(株)テイオン/業務量販部長] |
吉岡 武也[ |
北海道立工業技術センター 研究開発部/科長] |
木下 康宣[ |
北海道立工業技術センター 研究開発部/研究員] |
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背景・目的
申請者らは、精製した魚類筋肉タンパク質をアルギン酸オリゴ糖で修飾すると、本来は水に不溶の筋肉タンパク質が水溶化し、さらに高温でも不溶化せず高い乳化能を保持することをみいだした。この知見を魚肉レベルに適用することができれば、水産資源の新規な利用技術開発に貢献できる。そこで本研究では、この知見をシロザケ筋肉に適用し、水溶性魚肉の製造が可能であるか検討するとともに、魚肉レベルでタンパク質の機能改変を行う際の問題点の抽出と解決策を検討した。
内容・方法
(1) シロザケ筋肉のアルギン酸オリゴ糖修飾による水溶化とその安定性
性成熟度の異なる3種類のシロザケ筋肉(銀毛、Bブナおよびホッチャレ)を磨砕して0.1M NaClに懸濁後、アルギン酸オリゴ糖(以下AO:平均重合度6-7)と終濃度0.6Mソルビトールを混合した。このタンパク質−糖混合物を凍結乾燥後、40-60℃に保持してタンパク質中のリジン残基とAOの還元末端を反応させ、魚肉分子中にAOを導入した(以下、Meat-AOと記す)。このようにして得たMeat-AOを0.1Mおよび0.5M NaClに分散・溶解し、その溶解性を検討した。また、-25℃で2ヶ月間凍結貯蔵した原料魚肉からMeat-AOを製造し、原料鮮度と溶解性の関係について検討するとともに、0.1M NaClに溶解したMeat-AOを4℃で7日間貯蔵した後、溶解性の変化を検討した。さらに、Meat-AOの色調、臭気について官能的観察を行った。
(2) 水溶化シロザケ筋肉の製造過程における微生物制御
シロザケ筋肉のAO修飾反応過程における微生物の消長について検討した。
結果・成果
(1) AO修飾によるシロザケ筋肉の水溶化とその安定性
1.シロザケ筋肉(銀毛)をAO修飾してMEAT-AOを調製したところ、その0.1M NaClに対する溶解度はAO結合量の増加に伴って上昇した。また、BブナとホッチャレのMeat-AOにおいてもAO修飾に伴って水溶化が進行し、0.5M NaClに対する溶解度とほぼ等しくなった。
2.AO修飾によって起こる魚肉の水溶化効果は、性成熟度の異なる3種類の筋肉を-25℃で65日間貯蔵しても全く変化しなかった。
3.AOは魚肉中のミオシン、アクチンおよびトロポミオシン分子に結合していることが電気泳動分析と糖染色の併用によって明らかとなったが、銀毛、Bブナ、ホッチャレのいずれのMeat-AOにおいても、筋肉の水溶化過程でタンパク質の低分子化は観察されなかった。
4.ホッチャレ筋肉は性成熟の進行によってアスタキサンチンと脂質含量が最も低下していたが、ホッチャレのMeat-AOは銀毛由来のMeat-AOよりも白色で魚臭がほとんど感じられなかった。
5.いったん水溶化したMeat-AOは、4℃で7日間貯蔵してもその溶解度の低下はほとんど観察されなかった。
以上の結果は、AO修飾によってシロザケ筋肉を水溶化できる(低イオン強度溶媒に対する溶解性を向上させる)こと、さらにこのAO修飾の効果が、性成熟による肉質の劣化や凍結貯蔵の影響を受けないことを示している。
(2) シロザケ筋肉のAO修飾反応過程における微生物の制御
1.魚肉とAOの反応を実用的な作業時間(1-2日以内)で進行させるには、40℃以上での反応が必要であった。そこで反応過程における微生物の増殖を抑制する条件を検討したところ、60℃でAO修飾すると一般生菌数の減少が認められ、真菌も全く生育しなかった。この反応条件では、魚肉の水溶化効果が約1時間で最大となったので、タンパク質機能の改変と微生物制御が相反せずに行えることが確認できた。
(3) 未解決課題
本実験系では魚肉に過剰量のソルビトールを混合したが、これは凍結乾燥と修飾反応の両過程における魚肉タンパク質の熱変性を抑制するもので、呈味性の点で問題となる可能性が指摘された。今後は最適添加濃度の決定あるいは代替添加物の検討が必要である。
今後の展開
これまで精製タンパク質を用いて研究してきた魚肉タンパク質の機能改変技術が、血液や脂質などを含む魚肉にも適用できることが明らかとなり、水溶化魚肉の大量調節が可能であることが検証できた。
今後は利用面にも軸足を置いた研究をおこない、本新素材の実用化に近づきたい。
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