産業化研究開発支援事業 研究開発シーズ育成補助金

農産廃棄物である蕎麦殻の全成分利用システムの構築

小島 康夫[ 北海道大学大学院農学研究科/助教授]
山本 美穂[ 北海道大学大学院農学研究科環境資源学専攻]
鈴木  勉[ 北見工業大学化学システム工学科/教授]
船木  稔[ 北見工業大学化学システム工学科/助手]
我妻 尚広[ 幌加内町農業技術センター/主任研究員]
石井 琢帆[ 幌加内町農業技術センター/臨時研究員助手]
森谷  廣[ 幌加内町役場/産業課長]
細川 雅弘[ 幌加内町役場/産業課長補佐]
小林 四郎[ 幌加内町そば活性化協議会/事務局長]
足立  透[ (株)ヤマニ MD事業部/課長]
背景・目的

幌加内町では年間2千500トン程の蕎麦を収穫しており、単一市町村として全国一の蕎麦生産地になっているが、製粉時に排出される蕎麦殻の処理には有効な方法もなく、処理コストの負担も大きくなってきている。一方、蕎麦殻にはルチンなどのポリフェノール配糖体を含み、有用資源として見直されるべき特性を有している。この結果は、農産廃棄物である蕎麦殻から有用成分を抽出する技術を確立すると同時に、2次廃棄物となる抽出残渣を炭化して農業や園芸に有用な蕎麦殻炭や蕎麦殻酢を製造する方法を確立することを目的としている。

内容・方法

これまでの学術論文などでは、一般的に食用とされている普通蕎麦に含まれるルチン量は、蕎麦粉で20〜100ppm、蕎麦殻で20〜30ppm程度と報告されているが、定量法などに問題があり、この正確な量を明らかにする必要があると共にルチンなどポリフェノール配糖体の抽出方法を明らかにした。
次に、抽出残渣はそのままでは2次廃棄物となるため、この残渣の有効利用として炭化を行った。蕎麦殻の物理的・化学的性質から、通常の木材の炭化とは異なる条件を採用して炭化条件を検討した。特に炭化温度、蕎麦殻の含有水分量が炭化物や酢液の性質に大きく影響を与えたため、それらの使途に合わせた炭化生産物の性質が得られるよう炭化条件の適正化を試みた。

結果・成果

幌加内町より供出された普通蕎麦(品種名:キタワセ蕎麦)を用いて、含まれるルチン量およびそれらの抽出法を検討した。刈取り後の茎には3,000ppm以上のルチンが含まれることが明らかになり、また蕎麦殻には250ppm以上のルチンが含まれていることが明らかにされた。特に蕎麦殻でのルチン量はこれまで報告されている含有量より8から10倍量の値を示し、廃棄物としてではなく資源として見直されるべきものであることを証明した。また、これまでの報告値との差異の原因を抽出効率によるものと考え、蕎麦殻粉砕物をそのサイズで分画してメタノール抽出試験を試みた。その結果、120mesh以下:1200ppm, 120〜80mesh:800ppm、80〜40mesh:55ppm、40mesh:7ppmとなり(meshは篩網の細かさを示し、数字が大きいほど細かい)、80メッシュ以上大きな粉体(40mesh以下)は極度にルチン抽出効率が低下することが明らかにされた。この傾向は茎でも同じであるが、堅固な組織構造を有する蕎麦殻ほど顕著ではない。また、この粉体サイズが蕎麦殻の異なった組織に由来するかどうか検討するためにそれぞれの粉体を光学顕微鏡、電子顕微鏡で観察し、異なる組織から由来することが確認され、粒径の大きいものは果皮から、粒径の小さなものは種皮から構成されていた。
実用的な蕎麦殻からのルチン抽出方法の検討は、熱水抽出で行った。この結果、70〜100℃までの温度で15分くらいが望ましいことが分かった。これ以上の抽出時間ではルチンが分解してしまう。また50℃以下では抽出はされない。
炭化試験では、炭化温度と蕎麦殻含水率を変数として、得られる炭と酢液の性質から検討を行った。炭化温度を250℃から650℃まで変えて炭化を行った結果、得られる炭の収率と炭化温度の関係曲線は木材と同じ結果を示し、450℃までは急激に減少しそれ以上では収率減少は緩慢になる。これは450℃で1次炭化が完全に行われることを示している。また、炭の炭素含有率は450℃で76〜78%、650℃で87〜90%となり、450℃以降で脱炭酸、一酸化炭素やメタン、水素などのガス発生が起きて、水素や酸素が減少していくことを示している。得られる蕎麦殻炭は粒状で堅く、優良な炭である。また、酢液の性質は炭化温度に大きく影響されることはないが、蕎麦殻含水率によって大きく異なる。含水率が大きくなるほど酢液の収量は大きくなるが単純に水分として回収されているわけではなく、炭化初期の加水分解などの反応に寄与し、含水率33%まではアセチル基の加水分解により酢酸の発生が多く酢液のpHも低い。これ以上の含水率は単に水分として炭化初期に蒸発するだけである。
以上の結果、炭化温度は用途に合わせて450℃から650℃くらいが適当であり、含水率は30%前後が有用な酢液が得られることが明らかにされた。
 なお、作物成長試験では、生育、性質に優れた作物が得られることがダイコンなどの試験で明らかにされつつある。

今後の展開

この研究成果により、従来ルチンなどの含有量が少ないとされていた普通蕎麦の種皮(蕎麦殻)にこれまで報告されていた量の8〜10倍量のルチンが含まれていることが明らかになり、医薬品などの原料としても有用であることが証明された。また、抽出残渣は炭化によって、高品質な蕎麦殻炭が生産され、農業用土改剤、建築資材、家庭園芸用など広範囲な用途が見込まれる。さらに、蕎麦殻酢液には農薬効果も見込まれ、従来の木酢液以上の有用性が期待されると共に、農業用以外でも応用が可能であることが示されている。以上のことから、蕎麦殻を有用な資源として利用できる技術がここで確立されたが、今後はソフト面、すなわち生産物の利用方法や2次加工などに研究の方向をシフトする必要がある。