高性能な耐圧版式基礎の実用化及び地盤解析ソフト開発と応用研究
島口 兆玄[ |
ジェイ建築システム株式会社/企画開発室長] |
手塚 純一[ |
北海学園大学工学研究所/文部省学術フロンティア研究グループ研究員] |
谷口 博[ |
北海学園大学工学部建築学科/教授] |
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背景・目的
近年、社会的・継続的資産価値の高い建物が要求され、また「建築基準法の改正」、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が施行された。その中にあって住宅基礎の在り方も注目されてきている。それは基礎構造部分の品質確保で、そのためにも地盤調査が不可欠とされている。また、基礎は主要構造の中にあって10年間の瑕疵担保責任の対象にもなっている。そこで、基礎工法の一つとして「耐圧版式グリッドポスト基礎(G.P.B基礎)」を取り上げ、日本古来の技術「束石工法」の機能・効果(高床・通風)を近代化することにより耐震性を高め、耐久性・施工性・経済性が発揮できる新基礎工法として実用に向けて構築する。さらに、CAD、地盤解析FEM(有限要素法)を用い力学的解析の適応性について諸条件の整理、シミュレーションを行い、構造設計・施工全般にわたる影響を検証するなどの研究開発を行うものである。
内容・方法
基礎構造における合理加工法として施工性、品質(耐震・耐沈下・耐久性)、工期短縮といった性能を有する新基礎工法の実用・商品化に向けて研究を行う。また、自社開発ソフトの木造3階建構造計算プログラム「サードJ」をもとに下部構造の本基礎を含めた構造計算可能なソフトの開発を行い、そのデータにより地盤の適性とされる地耐力を判定し、さらに沈下量をも判定させるFEMソフトを求め、解析条件及び誰でもが評価しうる手法を研究する。そこで地盤調査によるデータとFEMソフトなどで本基礎による地盤解析をあらゆる条件でシミュレーションを行い、今後の本基礎の実務設計における安全性能と信頼性を高めるための手法を具体的に行った。
結果・成果
(1) 地盤調査・解析・評価及び基礎と建築物に関する調査とその保証に関する情報探索
地盤解析ソフトメーカーなどの情報探索では、住宅用地盤解析及び下部構造を含めた構造計算ソフトは市場に無いとの結論に達した。また、保証に関しては軟弱地盤での地盤調査企業やPC杭工事業者による独自保証及び保証協会などでの保証はあったが、公的機関での保証は見受けられなかった。また、後述するが地盤解析ソフトによる本基礎と地盤に関する評価も行っている。さらに、本基礎工法を含めた基礎まで構造計算可能なソフトの開発をすることができた。これは、富士通エフ・アイ・ピー(株)の基本ソフトSTRDESIGN(ストラデザイン)をもとに本基礎を含めたべた基礎対応ソフトを開発し、商品名「STRDESIGN-J」として共同販売を行っている。
(2) グリッドポストの実用・商品化のための研究により金型を製作し、ポスト試作
コンクリート製品メーカーの(株)北陽の協力が得られ、実用・商品化のための組合せによるタイプ別の金型を製作した。これによる試作試行の結果、実用の可能性及び商品価値が高く、金型使用の量産による経済性をも検証できた。それは、金型による試作品により(株)土屋ホームなどの協力が得られ十数棟の実現場で試行実験を行い、施工性、工期短縮、経済性及び安全性が確認され、設計・技術マニュアル作成の基盤となった。またフクビ化学工業(株)との共同により次世代省エネ基準対応の断熱型枠システムの開発も行っている。
(3) 破壊試験及び性能評価
ポスト部の水平荷重時の耐力試験を北海道工業大学にて行いその結果、ポスト組合せ加力方向の違いによる水平加力実験で、曲げ初亀裂荷重は、10.5KN〜17.6KNで組合せ加力側の中央部に亀裂が発生した。さらに加力すると脚部の金物取付ボルト付近よりせん断亀裂を生じ耐力低下となった。最大耐力は、24.3KN〜36.3KNで加力方向により多少の違いが生じている。本ポストは、プレキャストコンクリート(強度FC3KN/m2以上)で十分な圧縮強度、せん断強度を兼ね備えており、試験体最小値の24.3KNより、設計荷重に対し安全な圧縮・せん断強度であるといえる。試験結果と実施設計の比較では3倍のせん断力で、さらに鉛直荷重をかけない条件の試験のため、より安全側となることがわかった。
FEMソフトのシミュレーションによる評価結果として、積分点の主応力、最大せん断応力及びひずみ量を求めた。さらにメッシュされたモデルの応力分布、ひずみをビジュアルに示すことができた。例えば、基礎立ち上がりの荷重により、表土からGL-1.75mまでひずみの度合いが顕著に得られ、中央部については放射状に応力が各土質基盤に伝わっていることが分かった。GL-3.5mで上部荷重の影響が微小となり、変位量もY方向-0.047mmとなり安定している。しかし、表土から近いGL-0.75mでは、Y方向-0.38mmのひずみで安全といえるが、設計上注意が必要となった。またGL-0.3mの地盤では多少問題とされている地耐力でN値=2.0である。しかし応力伝達が分散して小さくなってくるため、それほど大きなひずみ(-0.173mm)になっていないことが判断できた。本耐圧版方式の新基礎工法はさほど地耐力の小さい地盤でも適応されることが確認された。
(4) 施工技術、実用の研究評価
十数棟のケーススタディーによる平均で施工標準工程日数5日間となり、従来一般基礎の10〜20日要した工程と比較すると大幅な工期短縮となっている。また、工期短縮によるコストダウン以外として耐圧版は地耐力の負担を軽減させ、フローイング工法として軟弱地盤に適用させることができるため、N値2未満の軟弱地盤での基礎杭の本数を減らすといったコストダウンの可能性を有する。以上により従来の工法と比較して2〜3割前後のコストダウンであることが評価された。
今後の展開
本研究により、耐震性を高め耐久・施工・経済性が発揮できる「新基礎工法」としてシステム化し普及することは、建物全体の高資産価値化、建物改修工事時のポストのリサイクルによる環境問題改善、施工性・工期短縮による熟練技術者不足対応となり社会的意義も大きいものと思われる。そこで広く認知されるためのツールの製作、製造・供給・販売ルートの検索、設計・現場支援体制等を確立することにより本基礎の需要は極めて高いものと考え、全国的普及による新たな発展が期待される。
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