リハビリテーション医療情報共有システムの開発

仙石  泰仁[ 札幌医科大学保健医療学部/講師]
大柳  俊夫[ 札幌医科大学保健医療学部/助教授]
神  智恵美[ 別海町老人保健施設「すこやか」/係長]
中島 そのみ[ 札幌医科大学保健医療学部作業療法学科/助手]
背景・目的

広大な大地を有し、さらに過疎・過密の問題を抱えている北海道において、道民への質の高い保健医療の提供を実現するためには、地域への医療従事者の定着が必須である。しかし現状では、保健医療の専門職の大多数都市圏に集中し、地域の市町村では全く配置されていないか、多くの場合職場に一人という孤立した状況にある。また、都市圏においても、最近、介護保険に関わる業務でも関係する専門職間の連携を取るに当たってケア・マネージャが多大なる労力を払う実態にあることが指摘されている。本研究報告では、これらの問題を解決するシステムとして、高度情報通信技術を利用してリハビリテーションに関する種々の情報の共有、協調作業、教育支援などを促進することを目的としたリハビリテーション医療情報共有システムの研究開発とその運用実験を行った結果について報告する。

内容・方法

本研究では、実用的なリハビリテーション医療情報共有システムの開発を行うために、道東の別海町職員である共同研究者との間で?専門知識に関する講習会の開催、?実際の評価・治療場面での診療支援、?患者情報の共有化とカンファレンスを通じた診療支援、?リハビリテーションで必要となる動画像の保存方法の検討、の4点について取り組みを行った。使用機器は、講習会およびカンファレンス等の会議形式の遠隔支援にはテレビ電話(NTT製Phoenix mini type-M)を使用した。また、患者評価や治療場面の動画情報を含む遠隔支援では、SONY製デジタルビデオにて撮影した患者の身体機能状況や治療場面をSONY製パーソナルコンピュータ(VAIO PCV-MX3GK, キャプチャソフトウェアDvgate ver. 2.2)に取り込み、すでに共同研究者らが開発済みの蓄積伝送を前提とした動画像コラボレーションソフト(MediaCollaborator)を用い動画情報の共有化を行い、更にPhoenix mini type-Mを併用し実施した。

結果・成果

専門知識に関する講習会を研究期間中4回実施し、内容は疾患に関すること、在宅リハビリテーションにおける家屋チェックの方法について行った。講演は、テレビ電話Phoenix mini type-Mの外部端子である映像および音声出力をVHSビデオデッキを介して29インチのテレビモニタに接続して講義形式で行い、資料は事前にe-mailで提供した。この様な形式で行った講習の利点として、(1)講習会開催場所への移動時間が短縮され経済的効果が大きい、(2)VTRでの録画か容易に可能であり参加者が復習すること、また、他者への伝達が容易、(3)従来の講習会と学習環境としてほとんど変わらない、(4)講師との距離感が従来の講習会よりも密接であり、質問や討議がしやすい、という4点が確認された。
実際の評価・治療場面での診療支援と患者情報の共有化とカンファレンスを通じた診療支援では、いずれも別海町在住の3名の患者を対象に行った。対象となった患者には本研究の趣旨を伝え同意を得た後に支援を開始した。3症例それぞれ別海町の理学療法士・作業療法士と伴に共同で評価−問題点の抽出−治療計画の立案−治療−再評価カンファレンスという一連のリハビリテーションの流れを動画像情報とPhoenix mini type-Mによるテレビ電話システムを利用して行った。この一連の過程で、動画像コラボレーションソフトウェア(MediaCollaborator)による画像が、運動機能における起居動作などの粗大運動や把持やつまみなどの微細運動の評価において十分耐えうること、また、相方向の協調評価作業が評価精度を挙げることが確認された。更に、文書情報では伝わりにくいしゃべり方や患者の雰囲気として現れる精神状態などについても、評価者間で共有が可能であった。 
動画像の保存方法としては、SONY製のパソコンに付属しているDVgateソフトウェアを用いてパソコンに取り込んだ。ファイル形式は、DVコーデックのAVIファイル(720×480ピクセル、29.97fps)とビデオCD規格準拠のMPEG1ファイル(352×240ピクセル、30fps)ファイル形式の2種類を比較し、検討した。AVIファイルの場合は、音声も同時にキャプチャすると、1分あたり約210MBの容量に、MPEG1ファイルでは同じ動画像情報が約10MBの容量であった。MPEG1の1フレームあたりの画像の大きさは、AVIファイルの約4分の1と小さいが、リハビリテーションの評価が十分行えることが確認された。
システムの構成として、講習会の開催では、ISDN回線の2本のBチャンネルを利用して128Kbpsの通信速度でテレビ会議を行った。今回利用したテレビ電話のビデオコーデックはITU-T H.263準拠で講習会の利用では十分なものであった。診療支援では、ISDN回線の1本のBチャンネルをテレビ会議、もう1本のBチャンネルを2台のパソコンの接続(LAN間接続)に利用し、テレビ会議による話し合いと同時にMediaCollaboratorを用いてパソコンに保存している動画像を使った症例の検討を行うようにした。Bチャンネル1本による64Kbpsのテレビ会議は、H.263コーデックのおかげで、症例の検討では十分な画質であると判断された。また、MediaCollaboratorによる症例検討の協調作業も、事前に動画像データを送っておく蓄積伝送型としていることで、リアルタイムに送受信するデータ容量を少なくすることができ、64Kbpsの通信回線で十分満足のいく応答性能が得られた。

今後の展開

本研究を通じて、通信技術を用いたコミュニケーションにより専門知識の共有や診療支援の可能性が確認できたと考えている。特に、より詳細な患者情報の伝達には動画像を用いた症状の共有化を図ることで、リハビリテーションにおける評価や治療をより適切に支援できた。しかし、共有化すべき情報の精査を行わないと情報量が膨大になってしまうこと、また、継続した情報の連続性を如何に記録するのかが課題となった。