我々は、正常口腔上皮と数種類の口腔癌由来細胞株におけるhBDのtype1と2の発現様式を明らかにした。そのなかで、口腔癌由来細胞株中にはこれらの発現の著しく低下しているものや、正常口腔上皮では発現が誘発されるhBD-2の発現の誘発されていないもののあることを実証した。このことからhBDの多型性あるいは変異の存在が示唆された。最近、重度の歯周炎の患者からその発症、進行に関わっている遺伝子に多型性のあることが報告されてきている。歯肉口腔上皮から産生されるhBDは歯周炎予防の自己防御機構に関わっているものと考えている。本研究では、hBD遺伝子の多型性と歯周炎との関係を明らかにし、このことを歯周炎のリスク診断に応用することを目的とする。 内容・方法 (1) 細胞株でのβディフェンシン2mRNAの発現 結果・成果 今回用いた口腔上皮由来細胞株のなかで、KB細胞以外ではβディフェンシン2mRNAの発現が認められた。このなかで、正常口腔上皮細胞と同様にβディフェンシン2mRNAの発現していた細胞がSCC-9であったので、この細胞を用いてAcitnnobacillus actinomycetemcomitance(Aa)菌、TNF-α、LPS、IL-1β認の刺激によるβディフェンシン2mRNAの発現変化を観察した。SCC-9のβディフェンシン2mRNAはいずれの刺激によってもup-regulationが認められ、口腔上皮の感染による防御機構にβディフェンシン2mRNAの関与していることが示唆された。次に、この発現部位を同定するために、口腔上皮および上皮性疾患を用い、免疫組織化学、in situ hybridization法を行った。その結果、βディフェンシン2のタンパクは主に角質層に存在しており、mRNAは有棘細胞層付近でのシグナルが認められた。以上のことから機能発現には角質層でのタンパクの貯留が重要な役割を担っていることが明らかとなった。これらのことから、βディフェンシン2は歯周炎をはじめとした口腔感染性予防の自己防御機構に関わっているものと考えたため、βディフェンシン2の遺伝子多型性と口腔感染性疾患との関係を明らかにすべく実験を行った。この臨床的研究に先立ち、βディフェンシン2の発現の認められなかったKB細胞を用いそのコーディング領域およびプロモーター領域をdirect sequaence法により塩基配列を検索した。その結果、多型部は、翻訳開始コドンatgより、一領域数ヶ所、+161、+237に多型が認められた。コーディング領域の+161と+237は、βディフェンシン2mRNAの発現検索のために用いたプライマーにかかっておらず、発現が認められなかったのは、プロモータ領域の多型に関与していることが示唆された。ゲルシフトアッセイによりDNAタンパク結合親和性を観察したところ、一部に正常細胞に比べて結合親和性の変化が観察された。また、健常人から無作為にDNAを抽出して同様の部位を観察したところ、KB細胞に多型のあった一部に同じ塩基異常の見られるものがあった。そこで、現在ルシフェラーゼにより同部が機能的タンパクとして働くか否か、検索中である。 今後の展開 今回の検索によってSNPである可能性のある部の遺伝子多型を母集団を増やして検索して、SNPであることを確定する。さらに、喫煙習慣のない重度の歯周炎患者を集め、このSNPの発現率を検索し、同じく喫煙習慣のない健常人の発現率との相関解析を行う。これらの結果から、今回見つけられた多型の歯周炎リスク診断の一助としての有用性について検討する。 |