2サイクル機関における道産天然ガスの筒内噴射に関する研究

村山  正[
常本 秀幸[
北海道自動車短期大学/教授]
北見工業大学/副学長]
守家 浩二[
大阪ガス(株)開発研究部原動機効率向上プロジェクト/部長]
近藤 幹郎[
畠山 収司[
北海道自動車短期大学/教授]
北海道自動車短期大学/教授]
関谷 芳男[ 北海道自動車短期大学/非常勤講師]
背景・目的

今日まで内燃機関の燃料は、ガソリン、ディーゼル燃料に代表される石油系燃料が主流を占め、わが国の石油エネルギーの約4割は、自動車用エンジンに代表される内燃機関によって消費されている。その結果として、二酸化炭素の排出に起因する地球温暖化などの環境汚染が生じている。そして、このような問題を解決する手段として、電気、メタノール、水素、圧縮天然ガス(CNG)などをエネルギーとした、より高効率で低公害な内燃機関の出現が望まれている。
本研究ではこれらの技術を応用し、汎用の水冷小型2サイクル機関において、道産天然ガスの筒内噴射技術を用いることにより、掃気の際の混合気の素通りを防止して、熱効率(燃費)の向上と排出ガスの減少(特にHCの低減)を確認した。('99年ホクサイテック財団 共同研究支援、平成12年9月 日本機械学会 内燃機関シンポジウムで発表)、(2001年5月 SAE、オーランドUSAで発表)

内容・方法

本研究では、家庭用ガスラインから天然ガスを供給して原動機を運転し、これにより、一般家庭で使用できるようなヒートポンプシステムを構成することを目的とした。なお、実験に使用した原動機は2サイクルエンジンであり、燃料供給方法としては電子制御の筒内噴射を採用した。2サイクルエンジンは高出力・低コスト・小型というメリットに対し、課題として燃料の吹き抜けによる排ガス成分の悪化・効率低下がある。本研究では、GHP用小型エンジンとして、汎用の2サイクルエンジンをもとに電子制御式の燃料噴射装置を試作し、これにより小型2サイクル機関固有の掃気の吹き抜け改善を図った。実験に際しては、供試機関をガソリンによる気化器付機関として運転する一方、供試噴射系で吸気管噴射をも行って、それぞれの性能を比較検討した。実験の便宜上、今回の実験においては高圧ボンベに充填された15MPaのCNGを0.1〜0.5 MPaまで減圧してエンジンに供給した。
平成12年度は、道産の天然ガスを水冷式の2サイクルガソリンエンジンに供給して、吸気管噴射と筒内噴射とを試み、全負荷運転時における出力、燃料消費率、正味熱効率、および排出ガスについて、ガソリンを気化器で供給した場合との比較を行い、燃料消費率(熱効率)の向上、排出ガス(CO、HC、およびCO2)の減少を確認した。具体的には、筒内噴射により、ベースエンジンと比較して熱効率で9ポイント(約40%)の向上、未燃成分で約65%の低減を確認。THCでは25000ppmから9000ppmまでの低減を確認した。

結果・成果

本実験では、昨年の強制空冷エンジンである富士重工業のRobinに替えて、水冷エンジンであるHONDAのMD32とを使用した。使用用途がまったく異なるエンジンで、出力やトルクなどに大きな違いがあるが、ガソリンのキャブレターと比較することにより、天然ガス筒内噴射式の機関性能の向上を検討していくことができた。
今回の実験においても、圧縮比を上げることにより機関性能は上昇したが、気体燃料である天然ガスを使用しているせいもあり、ガソリンのような液体燃料の気化熱による燃焼室内の冷却を期待することができず、シリンダーヘッドの冷却が足りなく、その性能をだしきっていない感じがあった。つまり、冷却効率の向上が今後の検討課題の一つである。
本研究では、水冷2サイクルガソリン機関において、天然ガスを用いた低圧の筒内噴射を行い、天然ガス実用化の可能性や筒内噴射による機関性能の改善効果を検証した。この研究の結果を要約すると、以下のようなものである。
(1) 天然ガスは気体燃料であるため、体積効率の低下と燃料特性の違いにより若干の出力の低下がみられた。
(2) 圧縮比の増加により、吸気管噴射と比較しても筒内噴射の方が、あらゆる面で性能の向上がみられた。
(3) 排ガスに関しては天然ガスを利用した方がクリーンで排出量が少なく、特にTHCの大幅な減少が確認された。
(4) 圧縮比の増加と吹き抜けの防止により、正味熱効率30%以上の良好な機関性能が得られた。
(5) 圧縮比の増加により、冷却が不足したが更なる冷却性能の向上により、より一層の機関性能の向上が期待される。

今後の展開

残された課題として、サイクル変動が筒内噴射の場合大きい(変動率10〜20%)。つまり、現状のエンジンでは限界の性能(圧縮比を高くした時の冷却能力の不足)が得られていることが考えられる。そこで、平成13年度の計画としては、1.多段噴射、2.多点噴射、3.燃焼室形状の変更を行い、今までの噴射技術を応用し、さらなる熱効率の向上と、サイクル変動対策技術の検証、および排出ガス(CO、HC、N0xおよびCO2)の減少効率を確認する。