リンパ管内皮細胞の細胞接着機能に関しては、通常の組織染色によるリンパ管の光顕的同定が困難なこともあり国内・外共に報告が無い。我々は最近、デスモゾーム関連蛋白desmoplakinを利用したリンパ管同定法の応用により、ヒト毛細リンパ管内皮細胞が白血球接着因子を発現することを見いだした。本研究はこれを背景として、リンパ管内皮細胞とリンパ球・腫瘍細胞との白血球接着因子を介した接着を超微細構造学的に検討することを目的として行われた。 内容・方法 (1) 本学歯学部・医学部附属病院より提供を受けるヒト舌・歯肉、頬粘膜、顎下リンパ節および腸管から組織切片を作製する。健常ならびに炎症・腫瘍組織のそれぞれについてリンパ管特異的免疫染色を施す。次に、白血球接着因子に対する金コロイド標識抗体を用いて二重免疫染色を行う。免疫染色した材料から作製した超薄切片を透過電子顕微鏡で観察し、ヒトリンパ管内皮細胞における白血球接着因子の発現部位、およびリンパ球・腫瘍細胞が接着しているリンパ管内皮細胞の接着因子発現について超微細構造学的に評価した。 結果・成果 (1) 血管内皮細胞はPECAM-1を管腔側にのみ発現するが、リンパ管内皮細胞は管腔側のみならず基底膜側にも発現する。 今後の展開 接着因子がリンパ管内皮細胞の基底膜側に通常発現する場合、さらには新生リンパ管でその発現が増強する場合、リンパ管基底膜が脆弱で不連続であることを考え合わせると、毛細リンパ管内皮細胞における接着因子の発現が組織内リンパ球や接着因子レセプターを有する腫瘍細胞の新生組織リンパ管内への移住に大きく貢献することが予想される。毛細リンパ管内皮細胞とリンパ球や腫瘍細胞との接着因子を介した接着機構の存在が明らかとなれば、生体防御機構におけるリンパ管の機能的意義を解明する上で、また炎症・悪性腫瘍の治療を考える上で新たな展開が生まれるであろうと考える。 |