カウンセリングにおける治療者とクライエント(または患者)の関係は、心理療法の基盤である。それは、作業同盟という概念によって理論化され、感情的な絆と治療目標と作業に関する合意という二つの基底をもとに、治療者と患者の間に作られる協力関係として理解されている。本研究の目的は、クライエントとカウンセラーの作業同盟の諸側面に対する見方のずれが治療過程において解消されるのか調べ、そのずれがカウンセリングの効果とどのように関係しているか、その関係は治療の進行とともに変化するのか明らかにすることである。 内容・方法 被験者はカウンセラーとクライエント48組、計96人である。カウンセラーはカナダ東部の総合大学の大学院修士過程に在籍するカウンセリングの実習生であり、48人中、男性12名、女性36名、年令平均は29歳であった。クライエントは近隣する大学の大学生で、48名中、男性10人、女性38人、平均年令25歳であった。 結果・成果 本研究の第一の問題は、絆、作業課題、治療目的という治療同盟の3つの側面に関するカウンセラーとクライエントの評定のずれが時間とともにどう変化するかである。カウンセリングの段階と治療同盟の3側面を反復因子として多変量分散分析を行った結果、(1) クライエントとカウンセラーの評定の治療同盟は同じ傾向を見せた、つまり、段階に従って上昇するのに加え、 絆の評定は、作業課題と治療目標よりも有意に高かった、(2)カウンセラーとクライエントのずれはカウンセリングの段階によって変化しなかった、(3)絆の評定のずれは作業課題のずれと治療目標のずれよりも有意に小さかった。第2の研究問題は、治療同盟の評定のずれがセッション効果とどのように関係し、また時間軸にそってどのように変化するか相関関係を求めた。その結果、(1)クライエント評定による治療同盟は全治療段階において広くSISと高い相関を見せ、(2)カウンセラー評定による治療同盟は初期の絆とSISの治療関係の効果と中期の作業課題とSISの課題遂行しか関係していなかった、(3)絆に関するずれはSISの課題遂行と負の相関し、終期では、正の相関を見せた(4)治療目標に関するずれはSISの課題遂行と関係の効果と負の相関をカウンセリング早期に見せた。 今後の展開 作業同盟に対する視点のずれは一度形成されると変化しない。ずれがカウンセリング初期においてセッション効果と負の相関を見せていることからそれが何に起因するのか明らかにすることが必要である。現在、視点のずれが大きかったセッションとうまく合っていたセッションのあいだにどのような違いがあるのか治療過程を質的方法を使ってその内容を分析中である。また、時系列の変化をより精度の高い統計法を使ってモデル化を行っている。治療段階を初期、中期、終期とわけるのではなく、セッションごとのより細かな変化を捉えるよう試みている。 |