融雪剤散布によるZn系めっき材料の腐食調査

田中 順一(北海道大学大学院工学研究科/技術専門職員)

背景・目的

雪害・道路凍結を防止するために、塩化物融雪剤(NaCl、CaCl2)が使用されているが、自動車の車体、道路柵、ガードレール、橋の高欄等に用いられている溶融Zn系めっき材料の腐食に、大きな影響を与えることが予想される。材料表面にめっきしたZnとNaCl、CaCl2の反応によって腐食が進行すると、内部の鉄材を腐食し、使用年数を圧縮するのみならず破壊に至る。
本研究の目的は、冬期間散布が施される石狩街道沿いを自動車車体に、Znめっき板を取り付け、湿潤と乾燥を繰り返し環境因子による腐食の実態を観察し、融雪散布剤とZn系めっき材料の因果関係を調査することにある。

内容・方法

溶融Znめっき処理は通常の道路柵や鉄塔部材と同じ、大気中450℃で60s浸漬めっきした試料を用いた。この12枚の試料をアクリル板のジグに固定し、自動車下部のマフラーの位置に取り付けて毎日走行した。走行距離は一日往復25kmである。実施時期は2000年11月から2001年4月までである。1ヶ月サイクルで試料を2枚回収し、めっき表面の観察と腐食減量を調査した。また、11月から4月まで通して取り付けた試料についても比較検討を行った。
腐食減量は表面の腐食生成物をブラシで除去し試料の重さで換算した。このデータを元に実験室的に融雪剤溶液をめっき試料に噴霧させ、湿潤・乾燥を繰り返した時の環境因子の変化による腐食の進行状況を把握した。なお、噴霧は市販の融雪散布剤で温度20℃で加速させた。試験終了後の試料の表面観察を行い、赤錆発生のメカニズムを検討した。

結果・成果

鋼構造物材料にZn浴で大気中450℃で60s浸漬めっきした試料の組織形態は、Zn皮膜層とFe-Zn合金層から形成される。Fe-Zn合金層は浸漬時において、鉄とZnの拡散反応によって形成される脆くて堅い相で40ミクロン程度の厚さを有する。引き上げ時に付着するZn皮膜層は通常は15ミクロン程度の厚さを有する。このめっき試料の特徴は冷却過程においてZnやFe-Zn相の体積収縮によって多くのクラックを発生し、時には鉄素地に達していることもある。通常は、鉄に対するZnの犠牲防食効果によって、腐食の律速はZnが優先することになるが、特殊な環境下では、そのメカニズムは必ずしも明らかにされていない。今回の融雪散布剤とZnめっき試料の腐食の律速について検討した報告がないため、検討を加えた。この試料を自動車車体下部のマフラー位置に取り付け、石狩街道を毎日25km走行した。マフラー位置に取り付けた理由は融雪剤が試料に触れて湿潤、乾燥を繰り返す最適な条件にあるからである。一月毎に試料をはずし、腐食減量を実験方法にもとづいて行った。その結果、腐食の速度は放物線側となるが、腐食の律速は激しくないことが分かった。報告によれば、札幌市の融雪散布剤は市販の散布剤と比較して、鉄のインヒビターである酢酸が添加されていることが大きい。しかし、湿潤と乾燥を繰り返さない試料に比較して、一月毎に取り出し乾燥させた試料では腐食の速度も大きいことから、腐食の律速は湿潤と乾燥の繰り返しによって律速することが分かった。このことを理解するために実験室的に、試料に融雪剤溶液を噴霧し、湿潤と乾燥を繰り返し、その腐食過程を追求した。その結果、めっき試料が濡れている状態にある時は鉄の腐食は律速しないが、乾燥をゆっくり経過させて見ると表面に赤錆の発生が観察された。これはZnめっき試料の組織形態が大きな作用を及ぼしていることが考えられる。すなわち、めっき作製時にめっき層にクラックが発生し、そこに融雪剤溶液が浸透する。湿潤時には、Zn被膜層と鉄素地の電極反応によって、犠牲防食効果を発揮する。乾燥期において融雪剤溶液の水位が下がりFe-Zn合金層に達した時に、電極反応が切断されて鉄の腐食が優先的に律速すると考えられる。従って、冬季間の年数に関わらず、腐食環境因子によって、鉄の腐食が律速することから、予防策の改善が必要とされる。

今後の展開

今回の実験結果より、常に試料が濡れている状態ではZnめっき層の腐食も鉄の赤錆発生の観察もされなかった。従って冬期間に雪に埋まったり、濡れた状態を保つ設置材の腐食がそれほど進まないことがわかった。しかし、湿潤から乾燥に変化する過程で乾燥の経過時間によっては、赤錆が表面に観察されたことから、Zn被膜層及びFe-Zn合金層が融雪散布剤と反応し乾燥する過程で、電極反応がどう関わりを持っているか詳しく解析を行う必要がある。すなわち、Fe-Zn合金層が電極反応を起こすかどうか検討することである。