マルバアサガオの教材開発に関する基礎的研究

中村 信雄[函館白百合学園中学高等学校/教諭]

背景・目的

アサガオは、小・中・高を通して教材植物として利用されている馴染みの深い身近な植物である。しかし、北海道においては、気候的な要因がアサガオの教材としての利用に制限を加えている(例えば、夏休みの前に開花を観察するのが困難など)。一方、アサガオに近縁な園芸植物であるマルバアサガオは、耐寒性に優れていて、多花性であるなど、アサガオに代わる、北海道における教材植物としての特性を備えていると考えられる。そこで、本研究ではマルバアサガオの教材化のための基礎研究を行うことを目的とした。

内容・方法

〈マルバアサガオの教材化のための基礎研究〉
一般に、アサガオを短日処理(暗処理)すると開花を促進することが知られているので、近縁種であるマルバアサガオについて、短日処理(暗処理)に対する、その効果を検討した。
また、花(蕾)の開花そのものについての研究材料としても優れているので、そのことに関する基礎研究を行った。
〈マルバアサガオの種子の確保と分譲の準備〉
目的の一つ目で教材化の基礎研究を行うと同時に、今夏、プランターなどでマルバアサガオ(系統SU1044:丸咲きの赤色花)を栽培し、分譲用の種子を確保し、希望者に分ける準備をする。また花色における変異には多くの種類があるので、複数の系統や品種についても栽培し、いくつかの系統や品種についても種子を確保する。

結果・成果

マルバアサガオへの短日処理の効果を検討した。アサガオと比較するため、各10粒の種子を播種し、それぞれを鉢植えにして栽培した。短日処理は、午後4時から翌朝の午前8時までの16時間を暗期として行った5月下旬に種子を播種し、発芽して、実生から本葉が3枚出たところで、短日処理を開始した。各々の植物体へは5回の処理を行い、その後、自然日長で栽培した。その結果、アサガオでは、短日処理が終了してから初花の開花までに要した日数は10個体の平均で46日であった。それに対してマルバアサガオでは、その日数が44日であった。このことにより、マルバアサガオもアサガオ(短日処理効果の高い植物として知られているが)と同様な短日処理効果が期待できる植物であり、教材としての利用が可能であると考えられた。6月初旬に短日処理を行えば、北海道においても7月中旬には花が観察できる。また、1節から2〜3個の花が咲くので花の構造の学習のための材料確保が容易である。
花(蕾)を用いた開花実験を行い、マルバアサガオの開花の基礎研究を行った。種子をプランターに播種し、実生が生育したのち植物体を鉢植え、または、地植えとして栽培し、播種後2ヶ月以上栽培した植物体から開花前日の蕾を花柄の部分で切り取り、実験に用いた。試験管立てに脱イオン水を入れた試験管を用意しアルミ箔で蓋をし、蓋に穴をあけて、マルバアサガオの蕾を差し込み、次に示す条件を組み合わせて、準備した蕾を恒温装置内に置き、蕾の開花が起こるかどうかを観察した。温度は、20℃・23℃・26℃・29℃・32℃・35℃とし、照明条件は、連続照明(約1000ルクスの白色光)か連続暗期とした。
開花状況の判定は、アサガオの開花の8stageを参考にしてマルバアサガオの開花度を3つに区分した。すなわち、未開花(開花度1:アサガオの1と2)、不完全開花(開花度2:アサガオの3から6)、開花(開花度3:アサガオの7と8)とした。実験の結果、各実験区におけるマルバアサガオの開花度の平均値から次のような結果が得られた。すなわち、23℃以下であれば、光のあるなしにかかわらず、蕾は開花するが、35℃を越えると、光のあるなしにかかわらず、蕾は開花しない。また、23℃〜35℃の間であれば、光の当たらない方が開花しやすい結果となった。
今回の材料としたマルバアサガオ(系統SU1044:赤花丸咲き)は、今回の実験と平行して栽培し、多数の種子を採取した。これにより、希望者へ分譲できる環境が準備できた。さらに、マルバアサガオのいくつか別の系統も確保した。

今後の展開

今回の研究により、短日処理の効果が確かめられたので、北海道においては、教材として、さらに普及するものと考えられる。また、アサガオに比べて、マルバアサガオは多数の花を咲かせる形質、すなわち多花性を示すので、この蕾(花)を利用して、小中学校での花の構造を学習する教材としても利用しやすい植物である。さらに、花の色や花の模様においても多数の変異が知られており、花の多様性(生物の多様性)を学ぶのにも適していると考えている。
学校において栽培していれば、生徒に新たな興味の喚起を期待できるものと考えている。