たたら製鉄法による鉄づくりの教材化
八島 弘典 [北海道立理科教育センター/化学研究室長]
|
背景・目的
文明が進んで、ものがあふれ、お金があれば何でも買えるという中で、ものをつくる科学技術に興味や関心を示さない生徒が増えてきている。このような状況に対して、まず、ものづくりを通してものづくりの楽しさを体験させ、さらにものづくりを通して人間と自然との関わりについて考えさせる必要があると考える。
ここでは、優れた日本の古式製鉄法であるたたら製鉄による砂鉄からの鉄づくり、さらにその鉄を使ってのナイフづくりを、特に専門的な知識がなくても誰もが短時間で体験できる基本マニュアルを作成することを目的とする。
内容・方法
これまで、高さ1.2mほどの小型耐熱煉瓦炉で、砂鉄、炭酸カルシウム、松炭を用いて、約3時間の操業で、たたら製鉄による鉄づくりを実施してきた。今回は、より小さな小型耐熱煉瓦炉、ペル缶炉、七輪炉を用いての製鉄づくりを実施する。また、得られたたたら鉄を用いてナイフづくりを実施する。
[木炭]
松炭を約3cm四方に切ったものを使用。
[砂鉄]
オーストラリア産(タアロア)の砂鉄を使用。
[操業条件]
1.木炭を燃やして炉を乾燥させるとともに、炉内の温度を高める。
2.木炭300g、砂鉄と炭酸カルシウムを質量比10対1で混合したもの200gを交互に入れる。これを20〜30回繰り返す。七輪炉はそれぞれの質量を1/2にして行う。
3.炉羽口(送風口)付近の温度を1450℃に保つようにする。
4.砂鉄の挿入を中止し、木炭がほぼ燃え尽きるのを待ってケラを取り出して水で冷却後、質量を測定する。
結果・成果
(1)小型炉の製作
1.小型耐熱煉瓦炉
耐火煉瓦、耐火断熱煉瓦、赤煉瓦、ブロックなどを用いて、小型耐熱煉瓦炉をつくる。
2.ペル缶炉
ア.ペル缶(直径30cm、高さ36cm)の底を切り抜く。
イ.ペル缶の内壁にオリビン砂に水ガラスを混合したものを張付ける。
ウ.ペル缶を3個連結してペル缶炉をつくる。
※ペル缶炉の製作は室蘭工業大学桃野教授にご指導をいただいた。
3.七輪炉
ア.1つの七輪の底を切り抜き、煙突がちょうどはまるようにする。
イ.もう1つの七輪にドリルで3箇所に穴を開けステンレス管(送風管)を差し込み、粘土とキャスター(耐熱性砂)を体積比1対1で混ぜたもので固定する。
ウ.2つの七輪の内壁に粘土とキャスターを体積比1対1で混ぜたものを約1.5cmの厚さで張付ける。
エ.2つの七輪を重ねて七輪炉をつくる。
(2)結果
1.耐熱煉瓦炉
下表のように、炉底からの高さが低くなるにつれ、得られたケラの収率は小さくなっていった。また、炉底からの高さが65.0cmのときは大きなケラができず、小さなケラが多数できた。
炉底からの高さ[cm] |
122.5 |
88.0 |
65.0 |
ケラ/砂鉄(質量比) |
0.19 |
0.12 |
0.08 |
2.ペル缶炉
ペル缶炉は、炉底からの高さはが105.0cmである。ケラ/砂鉄(質量比)が0.11〜0.23となり、耐熱煉瓦炉よりも安定して大きなケラが得られた。
3.七輪炉
七輪炉は耐熱煉瓦炉、ペル缶炉に比べて断熱効果が小さく、炉羽口付近の温度を1450℃程度にしっかり維持する必要がある。ケラ/砂鉄(質量比)0.02〜0.08となった。
[まとめ]
七輪炉でもたたら製鉄ができることが確認できた。しかし七輪炉では大きなケラをつくることができないため、そのケラを用いてナイフづくりなどをすることは容易ではない。大きなケラをつくるためには、小型耐熱煉瓦炉ではろ底の高さが88.0cm以上の高さが必要である。また、ペル缶炉はもっとも容易にたたら製鉄づくりをすることができ、一度ペル缶を製作すると繰り返し使用できるという利点がある。
ナイフづくりは本格的なものではないが、小学生でもできるマニュアルを作成することができた。
今後の展開
次の課題解決に向けて研究を進める方針である。
(1)たたら製鉄では炭酸カルシウムを使用することはない。今後、炭酸カルシウムを使用しないで製鉄づくりができるようにする。
(2)小たたら炉を初めて実施して成功された大野刀匠のやり方では、1回に炉に投入する砂鉄の量は約400gとのこと。今後、1回に炉に投入する砂鉄・木炭の適量を求め、操業時間を短縮できるようにする。
|