北海道「一村一アメニティ」:多面的機能による地域振興と環境保全

出村 克彦(北海道大学農学部農業経済学科比較農政学講座/教授)     
寺沢  実(北海道大学農学部森林科学科森林化学講座/教授)       
山本 康貴(北海道大学農学部農業経済学科比較農政学講座/助教授)    
伊藤 寛幸((財)北海道農業近代化コンサルタント/技師)         
佐藤 和夫(泣Aスタリア/研究員)                   
吉田 謙太郎(農林水産省農業総合研究所農業構造部生産構造研究室/研究員)

背景・目的
 北海道の地域振興を考える上で、「観光」は重要である。大型リゾート開発による旧来の観光振興策は限界があり、自然を活かした農村観光資源利用型「グリーン・ツーリズム」の発展の可能性が求められる。市町村は農業農村振興を図る多様な施策を実施している。地域の固有な景観等の公共財的な環境資源利用を、「一村一アメニティ」の創造として捉え、住民や観光客が受けるアメニティ効用を評価することで、農業農村の多様な機能を研究することが目的である。特にグリーンツーリズムは地域資源の活用と環境保全が重要な鍵となるので、先進国フランスの事例調査による比較研究を行った。
内容・方法
(1)道内市町村における農村アメニティを利用した地域振興の事例について、全市町村のアンケート調査を実施した。これにより、農業農村の多面的機能を利用したアメニティ創造・提供の類型化を行い、北海道における地域振興に有用な事例となるケース・スタディ実施の指標となる類型分析を行った。
(2)フランスでは地域振興策としての農村リゾートが確立しており、制度面でも整備されている。先進国の事例としてフランス農村リゾートに対象に、関係する政府機関、グリーン・ツーリズム機関である「ジッド・ド・フランス」、「農家へようこそ」での資料収集、聞き取り調査、及び及び両機関に加盟している農家民宿をする事で、農家調査を実施した。
(3)北海道における農村景観など、観光資源となりうる農村アメニティについての外部効果の評価を行った。また農業における外部不経済効果、特に酪農の糞尿汚染対策は、環境保全の面から重要であり、その実態調査を実施した。糞尿汚染防止は、農業農村の公益機能を高めるために必要であり、単なる汚染防止ではなく、堆肥化を図ることが重要である。そのための経済的、技術的課題を検討し、外部不経済の内部化の可能性を求めた。
結果・成果
(1)農村アメニティの類型化分析
 支庁、市町村及び諸団体の取り組みは、景観保全、アメニティ創造、農業教育、農業研修、レクリエーション、歴史文化、その他に類型化される。傾向を見ると、支庁での取り組みは、景観保全が50%以上、次いで、歴史文化、農業教育、レクリエーション、農業研修は16−17%台であり、アメニティは11%と少ない。アメニティは市の取り組みが55%と多く、それ以外の分野では市町村はほぼ等しい取り組みである。支庁別には、上川、胆振、十勝の取り組みが、景観保全を初め全般的に活発である。渡島、宗谷の取り組みは低調である。
(2)フランスにおけるグリーン・ツーリズム調査
 フランスにおけるグリーン・ツーリズムの歴史は決して古くはなく、1950年代から組織化され、推進されてきた。農村を利用したこの活動は三つ目的を持っている。第1に、放置されている農村の歴史的建造物の保全・活用である。第2は、大衆向けのバカンス地の創造としての農村の活用である。第3に、EUの農業政策の変更に伴い、農家の所得獲得機会の創造であり、当初は副次的役割であったが、近年はその重要性が高まっている。農家によって組織されている「農家にようこそ」において、農家が提供するプログラムは9種類(農家レストラン、乗馬ファーム、農家民宿、軽食の農家スナック、産地直売農家、発見・見学農家、教育ファーム、キャンピング農家、狩猟体験農家)に分類される。
 日本ではファーム・イン等の農村観光(グリーン・ツーリズム)の活動が見られるが、組織的にも、プログラムの内容、提供サービスの充実等に対する取り組みは、緒についたばかりである。何よりも農家の意識、これを利用する都市住民の意識は、まだまだ熟していない。日本におけるグリーン・ツーリズムの発展を図るには、その動機付け、支援組織、環境整備において一層の充実が必要である。
(3)農業の外部効果の評価
 農村アメニティがもつ外部経済効果評価の研究は実施済みであり、先の類型タイプ別の諸ケースを網羅している。ここでは、外部不経済効果を焦点に当てた研究を実施した。北海道酪農地帯の景観は、全国的に高い評価、美しいイメージを持たれているが、糞尿による環境への汚染はそのイメージを損なっておる。従って、糞尿汚染対策は、酪農地帯のアメニティを高める上で重要であるが、そのための費用負担は農家経済へ深刻な影響を与えることになり、それはシミュレーション結果においても明らかであった。
今後の展望
 グリーン・ツーリズムを推進することは、北海道の地域振興、農業振興のためには、重要な戦略的対応である。しかし、それは本来の農業生産、農業経営、農村生活等の活動が健全に活かされてこそ意味がある。農業農村が持つ多面的機能を発揮するための環境整備、意識の醸成を図りながら進める必要がある。フランスの調査からは、動機付け、支援組織の在り方、プログラムの内容を向上させる啓発と顕彰システム等を、如何に日本流に適応していくかの研究が求められる。