北海道とロシア極東地域との貿易、経済交流の現状と課題 |
戸田 一夫((社)北太平洋地域研究センター/会長) 川端 俊一郎(北海学園大学経済学部/教授) 川瀬 雄也(北海学園大学経済学部/教授) 村上 隆(北海道大学スラブ研究センター/教授) 荒井 信雄(札幌国際大学人文国際学部/助教授) 松江 昭夫((社)北太平洋地域研究センター/主任研究員) 高田 喜博((社)北太平洋地域研究センター/研究員) |
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北海道経済の国際化を進める方策の一つは、隣接するロシア極東地域との経済交流の促進である。最近は、その促進に向けた動きが見られるものの、ロシア経済の混乱の影響もあって、全体的には低迷している。本研究は、こうした現状を踏まえて、ロシア極東地域の住宅・公共サービス分野における改革の現状と問題点を明らかにし、中国における同様の改革とも比較しつつ、北海道の中小企業が有する寒冷地の生活関連技術を活用した技術交流・経済交流可能性を展望するものである。 | |
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北海道とロシア極東地域との貿易・経済交流を促進する具体的な方法を模索する方法として、概括的な現状分析などは既存の研究や資料に委ねることとし、それらを前提に具体的なテーマを設定して、限られた時間と予算を集中することにした。 すなわち、まず、ロシアにおける住宅・公共サービス部門について、ソ連期からロシア期へ移行する中でどのような改革が試みられたかを明らかにし、その現状と問題点を分析・検討した(第1章)。つぎに、ロシア極東地域の状況を明確にするために北海道に隣接するサハリン州のユジノサハリンスク市における住宅・公共サービス部門に関する現地調査を行った(第2章)。最後に、問題点を整理するとともに中国の改革の現状とも比較しつつ、北海道の中小企業が有する寒冷地の生活関連技術を活用した技術交流・経済交流可能性を展望した(第3章)。 |
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1992年から始まった新生ロシア連邦の市場経済化政策は、価格の自由化、企業活動の自由化を急速に推し進めた。貿易や資本移動の自由化に向けた改革も進められ、市場機能を補助するシステムも整備されつつある。社会主義のもとでは、ほとんどの住宅・公共サービスは無償で提供されていたが、この部門でも私有化と市場経済化が進められている。 国有資産の私有化を進めるにあたって、いま住んでいる住宅そのものもまた、無償で私有化されることになった。集合住宅の住戸専用部分には個人所有権が与えられ、その住戸所有者のつくる住宅管理組合に、躯体部分と共用部分、敷地の共同所有権を与えるという計画である。しかし現在のところ私有化率は50%に止まっている。つまり集合住宅は虫食い状態で私有化されており、共同所有権の移転が完成していない。共同所有者たちが自ら集合住宅を資産として維持管理する体制がまだ出来上がらないままになっている。 従来、集合住宅の共有部分の維持、修理、清掃など住宅管理費の受益者負担率は3%という低さであり、上下水道、熱、電力などの公共サービスの供給は、従来から市営企業によって統一的に行われていたが、これも受益者負担率は低い。現在のところ、ユジノサハリンスク市における公共料金の受益者負担率は、住宅管理費、住宅修繕積立金、暖房費、温水供給費、どれもみな30%であり、上下水道費だけが60%となっている。差額は自治体の負担となるが、地方財政が危機的状態にあり、膨大な負債を抱えることになった。 公共サービス部門は、こうしたシステムそのものの大変革と財政危機の中で、安定した公共サービスの提供とコストの削減のため悪戦苦闘しており、この分野での新技術の導入や支援に関して、日本(北海道)に期待している。公共サービス分野に関しては、改革開放政策の下、市場経済を大胆に導入する中国においても、同様の事情を見ることができる。技術移転・技術支援から始め、それを経済交流レベルにまで高める具体的な方策が必要である。 このように、市場経済化が進むロシアや中国では、社会主義時代の固定的なイメージとは違った新たな展開の中で、さまざまな需要が生まれ、大きな市場が形成されつつある。この主要な需要や市場をターゲットに、北海道との経済交流の可能性も拡大していることを確認することができた。 |
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今回の調査研究では、ロシア極東地域における住宅・公共サービス部門に焦点をあて、市場経済化にともなう改革の現状と問題点を明らかにし、その中で北海道との技術交流・経済交流の可能性を展望するに止まった。今後の課題としては、関連する他の分野への広がりを含め、技術交流・経済交流の可能性を実現するための具体的方策、さらにはロシア極東地域の市場を隣接する中国東北地域やモンゴル、あるいはヨーロッパロシアの市場への拡大・発展の可能性について検討していきたい。 |
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