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雪が北国の経済に与える負の影響は大きい。現在、雪を川や海に流す方法が最も環境に対する負荷がないとされているが、捨て場に限りがあり、他の対策が必要となっている。その対策の一つとして融雪槽があるが、現存の融雪槽の融雪速度は一般に小さく、しかも多くのエネルギーを必要とする。そこで本研究では、環境にやさしい旋回気泡噴流を利用したこれまでにない高い融雪効率をもった融雪槽の実用化を目指した。
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直径1.0mのステンレス製円筒容器を用いた実験を行った。雪は駐車場に堆積していたものを用いたが、硬い雪から軟らかい雪まで含んでおり、雪の平均密度は320kg/m3であった。今回は水の初期温度Tiの違いによる雪溶融時間を調べることとし、外部から熱を加えないこととした。Tiは、13℃、26℃、52℃の三種類とした。投入する雪の量は、125kg、250kg、400kgの三種類である。雪を投入してから雪が溶けるまでの浴水温は、浴の上・中・下部に設置している温度計により測定した。浴内へ吹き込まれるガスは、雪を投入して旋回が止まらないようにし、比較のためにガスを吹き込まない条件での実験も行った。
上記測定と平行して、容器直径0.2m、0.4mの透明アクリル製円筒容器を用いた実験を行った。Tiは上記実験と同様とし、投入する雪の量は容器内に存在する水の量を考慮して1kgから8kgの範囲で行った。浴水温は浴底部に設置した熱電対により測定して、温度履歴より雪溶融時間を算出し、目視による雪溶融時間と比較した。さらに、所定量の雪を投入する時間を変えて雪溶融時間との関係を調べた。
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目視によって、旋回気泡噴流を利用した場合と利用しなかった場合の実験を比較したところ、圧倒的に旋回を利用した方が速く雪が溶けた。よって、雪の溶融には旋回気泡噴流が有効であることが分った。ガス吹込みを行って旋回が起こっている場合のTiを変えた実験の結果、目視溶融時間に違いは見られなかった。これにより、雪より温度の高い水であれば、旋回気泡噴流の高い攪拌効果によって効果的に雪に熱を与え、雪の溶融が進行したと考えられる。
浴内にガスを吹込み、旋回気泡噴流を発生させたときの雪溶融時間を浴の温度履歴より求めた。本実験のように透明な容器を用いた場合は目視により溶融時間を求める事は容易であるが、実用上の融雪槽には不透明な容器を用いることが考えられる。その際、雪の溶融時間を知るために目視観察を行うことは難しい。
よって、温度履歴より求める溶融時間を次のように定義した。初期水温と最終水温の差の−5%と+5%を最終水温に加えた温度をしきい値として、温度履歴の曲線が最後にこの値を超えたときの時間を95%溶融時間とする。目視溶融時間と95%溶融時間を比較すると、容器径に関係なく、さらに雪投入量にも関係なく、雪を投入する時間が短い場合を除けば、この二つの溶融時間はほぼ等しくなった。また、雪を投入する時間が短い場合は、95%溶融時間を約1.6倍して補正することによって適用できることがわかった。今回の結果から、温度履歴を測定することにより溶融時間を知ることができ、実用化に一歩近づいたと言える。
引き続き水と雪の間の熱収支計算を行った。水が雪に与える熱量と雪が水から与えられる熱量が等しいと仮定して、水と雪の熱伝達係数を求めようと試みた。しかしながら熱伝達係数には雪の表面積が含まれており、この雪表面積の評価が難しいことから、水の単位体積あたりの量として容量係数Hを求めた。得られたHを用いることによって、今回行った異なる容器径での結果も含めて、ガス吹き込みの有無によるHを整理することができた。容量係数Hは所定量の雪を投入する時間に強く依存し、投入する時間が短いほど速く溶けることがわかった。ガスを吹き込み旋回現象が起こった場合、最初に水が持っている熱量に関係なく、ほぼ雪投入時間にのみ依存することが明らかになった。
旋回現象の有無によるHを比較すると、最初に水が持っている熱量が雪の溶ける際に必要な熱量とほぼ同じ場合、旋回現象有りの方が約150倍大きい。一方、初期に水が持っている熱量が雪溶融に要する熱量より十分大きい場合では、旋回現象有りの方が約6倍大きいという結果が得られた。これにより、上記で述べた結果も含めて、ガス吹き込みは融雪に効果的であるということがわかった。
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これまでは連続的に熱を供給しない浴槽での実験を行ってきたが、今後は実用化する上で一番大きな問題となる“連続的に融雪を行う系”での実験を行いたい。本系における、最適なガス吹き込み流量、雪投入量、熱供給量、水排水量、ノズルの位置などを変化させ、実用化に向けて最終段階の実験に入りたい。
また、それらの知見を得た上で、配管やポンプの設計、商業ベースで成り立つような価格も含めた総合的な設計を行い、実用化したい。
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