バイオセンサを用いた生体物質の非侵襲型簡易測定装置の開発

中村 健治(且D幌イムノ・ダイアグノスティック・ラボラトリー/課長) 
横山  徹(且D幌イムノ・ダイアグノスティック・ラボラトリー/研究員)
篠塚 直樹(且D幌イムノ・ダイアグノスティック・ラボラトリー/研究員)
佐々木 一正(北海道工業大学工学部応用電子工学科/教授)       
有澤 準二(北海道工業大学工学部応用電子工学科/教授)        
藤村 和見(潟zックス東京開発センター/主任)            

背景・目的
 現在、診断の多くは血液を検体としており、患者への肉体的苦痛や負担は決して少なくない。また、在宅治療あるいはベッドサイド検査の必要性や、個々人が日常生活の中で健康管理を行う必要性が求められ、負担の少ない簡易検査が強く望まれている。今回本研究では、非侵襲(無痛、非観血)検査を実現すべく唾液、尿、汗等の検体を用い、さらに迅速で簡易測定が可能なバイオセンサの開発を試みた。特に、糖尿病患者の診断への応用を目的とし、唾液中のグルコース測定について検討を行った。
内容・方法
 本研究の反応原理は、唾液中に含まれるグルコースとそれに特異的なグルコース脱水素酵素と補酵素による酵素反応が進行し、それに続く電子メディエータとテトラゾリウム塩による酸化還元反応も進行し最終的にホルマザンが生成される。このホルマザンを電極により電気化学的に酸化させ、その際に生じる酸化電流を検出する。ここでホルマザン濃度は唾液中のグルコース濃度と比例するため、上記酸化電流をもとにグルコース濃度が定量可能となる。
 今回構築した非侵襲型簡易測定装置は、酵素等の反応試薬と電極を一体化したバイオセンサと、電気化学的検出装置を有するポータブルメータから構成され、簡便で迅速測定が可能な携帯型測定システムである。
 ポータブルメータにバイオセンサチップを装着し、チップ先端に唾液を点着させるだけで、唾液中グルコース濃度が60秒後に結果表示されるシステムである。
結果・成果
 内容・方法において、種々の検討、選定を繰り返した後、設計、作製、構築したセンサチップおよびポータブルメータによる、非侵襲試料である唾液を用いたグルコース測定の結果を示す。
3−1 センサチップの基本応答
 センサチップの基礎および性能評価として最終生成物であるホルマザンの酸化還元応答を求めたところ、ホルマザン特有の酸化ピーク電位が約500mVに認められた。また、種々の濃度の標準溶液に対して、この電位を印加したところ、グルコース濃度に応じた酸化応答電流が得られた。
 次に、電位印加7秒後の応答電流値からグルコース濃度に依存した直線的な応答が得られ、以上より電極を用いた電流測定方式を確立することができた。
3−2 唾液試料の基本応答
 健康な成人男性の唾液に、グルコ−スを添加調製し、0〜15m/dLの濃度範囲におけるセンサチップ応答を求めたところ、標準溶液による結果と同様に、グルコース濃度に依存した直線的な応答電流値が得られ、添加濃度に対して回収性の高いセンサ結果が示された。また、グルコース濃度が高値を示した唾液検体を生理食塩水で希釈した結果も、原点を通る良好な直線性を示した。
 以上の結果から、センサチップならびにポータブルメータからなる本システムを用いた唾液中グルコース測定は、定量的に行われていることが確認され、非侵襲測定装置としての可能性を見出すことができた。
今後の展望
 我々が考案、構築したバイオセンサならびに簡易測定システムは、脱水素酵素反応とそれに続く酸化還元反応および電気化学的検出により、測定対象物質を非常に高感度に定量が可能であることを明らかにした。特に、非侵襲試料として採取が容易な唾液を用いて、検体中に含まれるグルコースを再現性よく定量できたことは大きな成果である。
 なお、構築した反応原理、測定システムは対象物質に特異的な脱水素酵素を変換するだけで非常に多くの測定対象に拡張することが可能であり、応用範囲は多岐にわたる。今後様々な対象物質について検討を進めていきたい。