電析法技術によるナノ構造磁気センサーの製作 |
上田 勇治(室蘭工業大学電気電子工学科/教授) 近澤 進(室蘭工業大学材料物性工学科/助教授) 山田 昭弥(苫小牧工業高等専門学校電気工学科/助手) 池田 正二(富士通潟Xトレージプロダクト事業部ファイル研究部) |
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最近の物質製作に関する装置の著しい発達に伴って微細組織を極限まで追求する材料設計、制御技術が開発されつつある。強磁性、非磁性原子からなる多層膜や微粒子析出型合金を原子レベルで制御し新物質を創製しようとするものもその一例である。これらの物質が示す特異な現象、特に巨大磁気抵抗(GMR)効果は、工業的応用の面から脚光を浴びている。これらの製作法は超高真空技術に依存した気相からの薄膜成長法が主である。我々は、コンピュータを使用したパルス波形制御による電析法により、強磁性と非磁性物質との組み合わせの多層膜及び合金の作製を行い蒸着法では得られない結果を得ようとするものである。 | |
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コンピュータによるパルス波形を用いた電析法の利点としては、 1)金属イオンの還元を通過電気量により行う直接制御であるので、パルス波形を調整し膜厚を原子単位で制御できる。 2)周期的パルス波形の波高値の変化のみで組成制御いわゆる異種金属を原子単位で交互に積層された多層構造の薄膜作製が可能である。 3)普通の溶融法では相分離し合金化が困難なものでも電析法ではパルス波形の間隔を極端に短縮することにより究極的には合金化が可能となる。 これらの利点を活かして、以下の実験を行う。 多層膜の作製 通過電流のパルス波高値を変えることにより、強磁性(Fe、 Co)及び非磁性(Cu、Ag、それ以外の金属)層の組成、析出状態を変化させた多層膜を作製し、磁界依存性を検討する。 非平衡合金膜の作製 コンピュータ制御によりパルス間隔を極限的に短縮し、非平衡合金を作製する。 スピンバルブ膜の作製 階段状パルス波形を用い、強磁性 NiFe層間のスピン配列が反平行になるような薄膜を作製する。 |
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マイコンを用いたパルス発生回路の作製により、0.1 msまでの短い時間間隔の制御が可能となった。このパルス電源回路を用いた装置により作製した膜において多層膜の電気抵抗率ρは、多層膜作製時における繰り返しの積層数nの増加とともに増加するのに対し、磁界印加(1.67 MA/m)による抵抗率の変化Δρは磁気抵抗(MR)比と同様にn=110付近で極大を示し、MR比の最大値は約9.5 %を示した。この極大を示す強磁性Co層の平均膜厚は、Co層が連続的平面配列から断続的不連続成長をする境界付近に位置しているため、更に積層数を増加させると、一原子層以下の平均層厚となるため、不連続的成長となり、即ち、微粒子化するものと考えられる。しかし、微粒子合金においては、完全に固溶された状態よりも、ある程度強磁性的な微粒子が適当な粒径及び分布状態で存在するとき、大きな磁気抵抗が得られており、積層数を増加させたとき、この粒径及び分布が必ずしも最適の条件になっているとは言えず、MR比は減少しているものと考えられる。すなわち、作製したパルス発生回路により薄膜の内部状態を変化させることができていると予想される。 また、Δρ/ρの磁界依存性は、n=50において、弱磁界でもMR曲線が飽和しやすい傾向を示すが、MR比が最大値を示した付近では1.67 MA/m程度の磁界でも飽和しておらず、全体的にnの増加に伴い飽和しにくい傾向となっている。磁化曲線はn=50において強磁性的であるが、nの増加に伴い角型比が悪くなり飽和しにくく、Δρ/ρの磁界依存性とも対応している。これらの結果は、強磁性層が薄くなることにより微粒子に近づき、比較的厚い層の強磁性状態からスーパーパラ的な強磁性微粒子部分が多い状態が作製されていることを示唆している。 今回作製した試料において低温での磁化測定におけるブロッキング温度TBはnの増加に対し、減少する傾向を示すことから、強磁性微粒子の粒径がより微細になっていることが考えられる。更に、nが125以上の膜において室温付近はTBよりも高温であることから、室温付近ではスーパーパラ的であることが言え、Fig.5の磁化曲線とも一致した傾向を示す。 即ち、この装置を用いたパルス電析によりCo/Cu多層膜の平均層厚が原子オーダー(0.1〜0.4 nm程度)で制御された膜の作製が可能であった。膜全体の組成一定のもとで層厚を原子オーダーで極端に薄く制御した膜において、MR比は極大を示しその極大値はn=110において9.5 %を示した。平均層厚が薄い膜において、磁化の温度依存性はスーパーパラ的な挙動を示し、比較的微細に混合した微粒子状態の膜の作製が可能であった。 |
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磁気抵抗を使用したMRヘッドは従来のコイルを用いた誘導型ヘッドよりも高密度記録 、大容量ハードディスク使用等の点で優れ利用されつつあり期待され、多くの研究がなされているが、スパッタ等の気相法からのものが主であり、必ずしも再現性ある結果が得られているわけではない。これに対し、我が国において電析法はその報告例が殆ど皆無に近いが、我々は気相法に劣らぬ結果を得ており、更に今後コンピュータ技術の改良をすることによりパルス波形を微細に制御し、従来得られていない新しい材料開発に向けて努力したいと考えている。 |
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