光ルミネッセンス野外測定装置の開発と岩盤崩壊年代の推定 |
加藤 孝幸(アースサイエンス梶^代表取締役) 鴈澤 好博(北海道教育大学函館校理科教育講座/助教授) 山田 良行(日本科学エンジニアリング梶^部長) 木崎 健治(アースサイエンス梶^技術課長) 永田 秀尚(虚乱土/代表取締役) |
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物質の年代測定法には同位体を用いるものをはじめさまざまの手法がある。熱および光ルミネッセンスによる方法もその一つであるが、この方法においては太陽光による年代のリセットが問題となり、これまではその影響をいかに排除するかが検討されてきた。今回開発を試みたシステム(光および熱ルミネッセンスを用いる)は、この「邪魔物」扱いされてきた太陽光によるリセットを逆に利用し、崩壊地において岩盤が地表に露出した年代を推定しようとするものである。 この背景には、ルミネッセンス法による近年の年代測定技術の進歩と近年の岩盤崩落事故の多発や防災意識の高まりがある。 |
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野外でのルミネッセンス測定装置については、岩盤斜面を対象とした視点からの開発は行われていないため、装置の基本設計から行うことを計画した。 岩盤の表面からドリリング(深さ数b〜数10b)を行い、その試料を用いて光および熱ルミネッセンス測定装置により光ブリーチの定量を行う。 このデータの信頼性は、別途開発する実験室用の高感度ルミネッセンス測定装置(光および熱)による実験と合わせて検証する。また、光ルミネッセンス測定は、赤色も青色も検出できるようにするので、深成岩・火山岩・堆積岩とあらゆる種類の岩石・堆積物の測定に対応できるようになる。このように、これまでの年代測定法にない独創性がある。 これまでの年代測定法では粉末の試料を使用し、試料は破壊された状態であるのが一般的であった。これに対して開発を目指す方法は、試料そのものは岩石片あるいは薄片として非破壊での保存が可能であり、年代測定以外の他の観察等に同時に使用可能である。また、太陽光によるブリーチの定量を空間的に行なうことができる。 このように、本研究開発は、ルミネッセンスによる年代測定技術の拡大に寄与するのみならず、斜面災害対策に適用することによって、防災技術の発展および社会的に重要な貢献となるものである。 |
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(1)TL装置の改良(熱ルミネッセンス) ルミネッセンス測定には高感度のフォトマルを組み込んだ測定装置が必要で、今回のホクサイテック財団の補助金により、高性能電子式冷却装置を購入し、測定精度の改善を行うことができた。その結果それまで350℃で約4000のバックグラウンドを約1500まで減衰させることに成功した。なお、時間上、予算上の制約もあり光ルミネッセンス装置の改良や野外測定装置の開発は不可能であった。 (2)ブリーチの理解の現状 種々の鉱物の入った岩石で光または熱ルミネッセンスによるブリーチの程度を直接測定するには、基礎的データや測定技術が現状では極めて不充分なことがわかった。そのため、石英を分離して熱ルミネッセンスの基礎実験から行うことを余儀なくされた。 (3)石英のブリーチテスト サンプリング技術の獲得兼実験用試料採取に努力した支笏火砕流堆積物(札幌軟石)は石英の含有量が少なく、今回の改良装置の精度をもってしても不安があるため、現在冷暗所に保存中である。 ここでは石英を多量に含む銭亀沢火山灰(Z-M)等でブリーチテストを行った。 (4)ブリーチテストの結果 Z-Mの石英をa(ブリーチを受けていない)、b(ブリーチ1日)、c(2日)、d(21日)、e(42日)と5段階のブリーチを施した試料で信号強度を比較した(350℃付近の最大ピーク値を用いた)。 この結果、Z-Mの石英は、ブリーチ開始後わずか1日で65%まで、2日で55%まで著しい減衰を示す。さらに長期のブリーチでは21日で54%、42日で45%まで減少するが、初期のブリーチに比較し、減衰率はきわめて小さい。さらに非常に長期にわたるブリーチを経ていると考えられるZ-Mの海岸砂の石英で実験した結果、41%のTL強度を保持しているという重要な事実がわかった。最後の点については既存の公表されたデータは認められない。 (5)岩盤崩壊年代推定への応用 今回の実験では、直接に岩盤崩壊の年代測定を試みるには至らなかった。しかし、これに至る貴重な成果をあげることができた。実験で作成した(ブリーチ後の強度/初生強度)−(ブリーチ日数)図の横軸(ブリーチ日数)は、(露頭の光の影響を受けていない深度)−露頭表面付近(信号が上述の45〜41%まで減少する深度)に対応すると考えられる。この深度を天然のブリーチ時間との関数で表すための実験を引き続き行い、実用化への道を切り拓く必要がある。 |
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実際に掘削年代のわかっている露頭での深度毎のサンプリングを行っているが、石英の量を打合せに見合った計画量は採取できた。しかし、改良した現装置の感度に対しては実際には充分でなかった。石英の量が少なくても、理想的には石英1粒子(グレイン・バイ・クレイン)で測定可能な方向へTLの測定感度を向上させる必要がある。同時に石英の多い岩盤露頭で、深度毎のサンプリングを行い実験を引き続き行う。光ルミネッセンスの利用については波長領域を工夫するなど基礎実験から始めねばならない。 このような実験を重ねつつ、現実的なサンプリングの方法と鉱物の分離の必要がない測定技術の開発に挑戦する。 |
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