住民生活に身近な医療福祉の再構築に関する研究

前沢 政次(北海道大学医学部附属病院総合診療部/教授)
鷹野 和美(広島県立保健福祉大学保健福祉学部/助教授)
大木 忠司(エア・ウォーター活纓テ事業部/部長)   
田島 隆一(エア・ウォーター活纓テ事業部/企画課長) 
杉本 満声(エア・ウォーター活纓テ事業部/営業課長) 
北守  茂(北海道大学医学部附属病院総合診療部/講師)

背景・目的
 北海道では住民の大病院志向や医療費の不適切消費が全国に比べ多い。また医療供給側も都市部の病院乱立による過当競争、逆に過疎部の医師不足は一向に改善の兆しがない。福祉に関しても施設依存の住民が多く、在宅福祉が十分展開されていない状況で介護保険の適正運用も危ぶまれる。本研究では医療経済、および医療システム論、住民心理の面から、独自の方法でその原因を浮き彫りにし、住民生活にふさわしい健康観、医療福祉の利用方法などについて検討し、行政施策と医学教育に対し具体的提案を行うことを目的とする。
内容・方法
(1)年間ひとり当りの医療費が高い地域と低い地域に関し、既存の資料をもとに、多角的な解析を行い、住民の健康観、医療機関の活用状況の分析を行う。また、その理由がどのように形成されたかについて考察する。
(2)地域医療従事医師の安定供給をはかるための取り組みに関し、大学医局と民間の独立団体の活動や地域センター病院の実践を質的に評価し、成果と問題点を整理する。
(3)住民の健康度を考えるに当って、介護保険に対する医療機関の協力関係は切り離すことのできない課題であり、症例検討を通して、住民にとって身近な医療機関の役割を明らかにする。
(4)考究の結果を行政施策にどう織り込むべきかを道、ならびに市町村に提案する。
(5)これらの結果を医学教育の改革にどう結びつけるかを提案する。
結果・成果
(1)医療費の高低による住民生活ならびに地域医療状況の分析
 北海道の二次医療圏における医療費の比較では、人口の年齢構成を補正した上で医療費水準を示し、全国平均を1.0とした地域差指数を用いた(平成9年度)。北網圏と十勝圏が1.060と全道の中で最低であった。根室圏が1.068、上川北部1.094、遠紋圏1.097とそれに続いている。一方、地域差指数の高い圏域は、札幌の1.468が第1位(全国でも1位)で、後志1.426(全国2位)、中空知1.423(全国3位)、西胆振1.325(全国5位)、南空知1.312(全国6位)東胆振1.310(全国7位)、南渡島1.298(全国9位)で、いずれも全国でも上位を占めていた。
 医療費が比較的適正値に近い圏域は、人口当りの医師数が比較的少なく、病床数も少なめで、保健婦数がやや多めで、全産業における一次産業の占める割合が、2割前後である。一方、医療費が高い地域は、人口当りの医師数が多く、病床数も多めで、全産業における一次産業の占める割合が、1割前後である。札幌圏は一次産業が1%となっている。
 市町村別では、旧産炭地に医療費の高い自治体が多い傾向にある。非保険者を一般と退職者、老人に分けると、これらの地域では一般被保険者の医療費が高額となっており、高齢者によるものではないことが分かる。疾患別では、循環器疾患、精神障害、筋骨格系が高い比率を示している。死因では、他の地域と比較して男女ともに白血病が多いこと、女性では虚血性心疾患、糖尿病が多いと報告されている。住民生活に関しては、一般被保険者が幼児期から思春期にかけて、相次ぐ閉山という産業の激変期に直面したことと健康状態との関連が推察される。
(2)地域医療従事医師の派遣母体による比較
 大学医局からの派遣は、短期2から6ヶ月では医師自身も腰掛的な気持ちで臨み、住民も慣れる前に交代するため、信頼関係を築くには時間が少な過ぎる。長期の場合にも医師の人間性に大きく左右され、行政も腫れ物をさわるような対応しかできない場合もある。一方、財団を通しての医師確保も、医師の側に帰属場所がなく、また行政との仲介役を欠くために、長期の勤務が困難な医師も少なくない。サポート体制の整備が早急に望まれる。
(3)医療と福祉の連携
 各地域に出向いて症例検討を試みたが、連携はいまだしの感が強い。
今後の展望
 地元の医療機関を的確に利用すること、生活習慣を改善すること、老後の生活の場を考えることなど、地域住民の意識改革をはかることが重要であるが、地道な保健活動と教育の改革以外は方法がないようである。それをできるだけ早期に実現できるとすれば、首長と医師の二人三脚である。本研究を通して、今後の保健活動のあり方、教育改革の提案をした。何よりも大切なことは、首長と健康政策面でのよきパートナーになれる医師の養成である。派遣方法も具体的モデルを早期に実現したい。