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ディフェンシンは、好中球から発見された抗細菌性タンパクであるが、最近になり、皮膚の上皮細胞で新しいタイプのディフェンシンが発見され、前者をαディフェンシン、後者をβディフェンシンとして区別するようになってきている。われわれは、先頃、βディフェンシンが口腔上皮でも発現していることを明らかにした (Abiko,Y. et al. Cancer Lett. 1999)。皮膚で発現しているβディフェンシン2の発現が、ある種の炎症性の因子によって変動することが報告されたが、口腔上皮でのその発現を変動する因子については不明である。βディフェンシンの口腔上皮での発現制御因子を明らかにすることは、細菌感染に対する口腔上皮の防御機構解明の一助となるものと考える。
内容・方法
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細胞には、多数の口腔上皮癌由来細胞株を検索した中、βディフェンシン2の発現様式が正常口腔上皮と同様であったSCC-9細胞株を用いた。In vitroにおける口腔細菌感染を想定するため、細菌に若年性歯周炎および進行性の歯周炎でみいだされることの多い、Actinobacillus actinomysetemcomitant (Aa)を用いた。
細菌感染率を細胞死の指標であるDNA fragmantation率により確認し、Aa菌に対するβディフェンシンの抗菌効果は、βディフェンシン合成ペプチドを用いて、Aa菌に対する抗菌効果を菌数を培養液中の濁度としてELISA readerにより測定した。また、炎症性刺激因子として、TNF-a、LPS、IL-1b、IL-8を用いて、βディフェンシン1および2mRNAの発現の変化を、LightCyclerTM(Roch Diagnostic Inc.)を用いた、定量的RT-PCRに検索した。さらに、実際に口腔上皮のin vivoでの発現状態を観察するため、手術材料を用い、口腔上皮のなかで角化性のもの、非角化性のもの、炎症所見のあるものについて、抗βディフェンシン2抗体を用いた免疫組織染色および、抗βディフェンシン2RNAプローブを用いた in situ hybridizationを行った。
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SCC-9にAa菌の感染を試みたが、今回用いた菌数では細胞死率の有意な増加は認められず、SCC-9はAa菌に感染しにくいことが明らかとなった。この時、同時にβディフェンシンmRNAの発現量を確認したところ、βディフェンシン1mRNAはコントロールに比べて、発現量に変化はなかったものの、βディフェンシン2mRNAは約5倍の発現量の上昇が確認された。また、合成ペプチドを用いた抗菌効果を検索した実験では、βディフェンシン2のペプチドの濃度依存的に細菌数の減少がみられ、βディフェンシン2のAa菌に対する抗菌効果が確認された(特願2000-103906)。炎症性因子による刺激では、βディフェンシン1mRNAでは発現量の変化が観察されなかったものの、βディフェンシン2mRNAは、TNF-a、LPS、IL-1bで発現量の明らかな上昇が確認された。
βディフェンシン2の口腔上皮in vitroでの局在を観察すると、タンパクは主に角質層に存在しており、mRNAは有棘細胞層付近でのシグナルが認められたが、その発現量は非角化の部分で多い傾向にあった(Abiko,Y.et al. Virchow Archivs, in press)。
以上のことから、口腔上皮では、細菌やTNF-a、LPS、IL-1bなどの炎症性因子によりβディフェンシン2の発現が上昇して、細菌感染の防御機構に大きく関与していることが示唆された。さらに、その発現部位としては、角化を伴ったところでは角質層に貯留して、非角化の部分では炎症性刺激によって連続的に分泌流出するという形で機能していることが示唆された。
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最近、重度の歯周炎の患者からその発症、進行に関わっている遺伝子に多型性のあることが報告されてきている。今回の結果からβディフェンシン2は歯周炎をはじめとした口腔感染性予防の自己防御機構に関わっているものと考えたため、今後、βディフェンシン2の遺伝子多型性と口腔感染性疾患との関係を明らかにしていく予定である。さらに、その結果をもとに口腔感染性疾患のリスク診断への応用を試みていく予定である。
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