メラトニンによる骨粗鬆症治療−経口投与による実験的研究−

中出  修(北海道医療大学歯学部口腔病理学講座/講師)

背景・目的
 最近、本研究者はメラトニンの毎日一回の腹腔内注射が(5-50mg/kg/day)には成長期マウスおよび骨粗鬆症モデルラットにおいて骨吸収を抑制し、骨密度および海綿骨量を上昇させる作用があることを発見した。本研究は成長期マウスにおけるメラトニンの口腔内投与がマウスの骨組織に注射の場合と同様な効果が得られるかどうかを調べる目的で行われた。さらに、in vitroにおいてメラトニンの骨吸収に及ぼす効果についてウサギ骨髄由来破骨細胞様細胞の培養系を用いたデンテインピットアッセイにより検討を行った。
内容・方法
1)動物および薬剤の投与法:4週令のオスのddyマウス18匹を3群(Group 1-3)に分けた。
Group1はコントロール群とし、通常の粉末の飼料(オリエンタル酵母社製)を自由に与えた。
Group2, 3には通常の粉末飼料に各々メラトニン(Sigma 社製)を0.1, 1%混ぜたものを自由に与え、実験群とした。投与期間は4週間とした。
2)骨塩量による検討:4週間の投与終了後、メラトニンの腹腔内投与が骨塩量に及ぼす影響をDXA 法により調べた。
3)骨形態計測による検討:
(1)海面骨骨形態計測;脛骨近位端において厚さ約5μmの非脱灰薄切標本を作成した。
(2)(緻密骨形態計測);脛骨骨幹中央部の横断面において厚さ約30μmの非脱灰研磨標本を作製した。
4)骨代謝マーカーによる検討:メラトニン投与終了時、採血を行い、血清を生化学的に分析した。
5) in vitro におけるメラトニンによる骨吸収に及ぼす効果について破骨細胞様細胞を用い、デンテインピットアッセイによりメラトニンが破骨細胞の吸収能に及ぼす効果を調べた。
結果・成果
1)口腔内投与(0.1 および1%)のメラトニンは、1%投与でやや体重減少傾向が認められたものの、 注射で投与した場合と同様にマウスの体重に統計学的有意差は認められなかった。
2)口腔内投与(0.1 および1%)のメラトニンは、 注射で投与した場合と同様に大腿骨および脛骨の長径および幅径に有意な効果を及ぼさなかった。
3)口腔内投与(0.1 および1%)のメラトニンは、 注射で投与した場合と同様に血清カルシウム、無機リン濃度に有意な効果を及ぼさなかった。
4)口腔内投与のメラトニンは 注射で投与した場合と異なり、大腿骨あるいは脛骨において骨塩量を上昇させる効果は認められなかった。
5)脛骨の近位端における海綿骨形態計測において、口腔内投与のメラトニンは %海綿骨量および骨梁幅を有意に増加させた。
6) 注射で投与した場合と異なり、口腔内投与のメラトニンは, 骨芽細胞面, 類骨量などの骨形態計測における骨形成パラメーターを有意に減少させたが、血清骨形成マーカーであるアルカリホスファターゼ活性には、有意な効果を及ぼさなかった。
7)口腔内投与のメラトニンは 注射で投与した場合と同様に骨吸収面あるいは破骨細胞数など骨吸収パラメーターを有意に減少させ、緻密骨形態計測においては特記すべき効果は認められなかった。
8)口腔内投与のメラトニンは 注射で投与した場合と同様に諸臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓)に病理組織学的変化を引き起こさなかった。
9)in vitro における破骨細胞様細胞を用いた破骨細胞の吸収能に及ぼす実験において、0-500μMのメラトニンは、破骨細胞単離の培養系においてはピット数およびピット面積に有意な効果を及ぼさなかったが、骨髄間質細胞(骨芽細胞系の細胞含む)と破骨細胞を混在させた培養系においては 250-500μMの範囲でメラトニンは、コントロールに比べ、有意にピット数およびピット面積を減少させた。
 結論および考察として1)口腔内投与のメラトニンは 注射で投与した場合と異なり、大腿骨あるいは脛骨において骨塩量を上昇させる効果は認められなかった。これらの違いとして投与方法の違いによるメラトニンの血中濃度の上昇の違いが考えられたがさらに検討を要する。
2)しかしながら、脛骨の近位端における海綿骨形態計測においては、注射の場合と同様に口腔内投与のメラトニンは %海綿骨量および骨梁幅を有意に増加させる作用があり、さらに骨吸収面あるいは破骨細胞数など骨吸収パラメーターを有意に減少させたことから、その作用は骨吸収抑制作用によるものであることが示唆された。
3)メラトニンの骨吸収抑制効果は破骨細胞への直接的作用ではなく、骨芽細胞を介した間接的作用であることが示された。
今後の展望
 本研究の結果から、老化あるいは閉経により、分泌の低下するメラトニンを外部から注射でなくとも経口補充することにより、骨粗鬆症を防止できる可能性が考えられ、骨吸収抑制剤としての臨床応用に向けて大きく展望が開けてきた。今後はメラトニンの骨粗鬆症治療における臨床応用を視野に入れながら
1)メラトニンの骨吸収抑制作用の機序解明
2)ラットにおける卵巣摘出直後における経口投与のメラトニンの骨吸収抑制作用の検討
3)ヒトにおけるメラトニンの濃度と骨密度との相関関係の有無
4)ヒトの臨床治験におけるメラトニンの骨密度低下防止等の有効性の確認
5)他の骨吸収抑制剤との併用効果等の検討を行っていく必要性が考えられた。