振動で誘導するウシの学習利用型自動給餌システムに関する研究

瀬尾 哲也(帯広畜産大学畜産管理学科共生家畜システム学講座/助手)

背景・目的
 これまでウシを誘導する場合、音が呼び出し信号として使われてきた。しかし、音では誘導したいウシ以外の他のウシにも聞かれてしまうため、群として誘導することしかできない。さらには場所によってはウシに音が伝わらないという欠点があった。振動を信号とすることで他のウシにその信号を感知されず、対象個体のみを正確に誘導可能である。そこで、本研究は自動給餌装置の利用効率を上げるために、コンピュータからウシに装着したポケットベルに電話をかけ、振動を感知させて、そのウシを自動給餌装置に向かわせる方法の有効性を検討することを目的とする。
内容・方法
 ホルスタイン種乾乳牛及び妊娠後期の未経産牛を計6頭供試し、コンピュータ制御された配合飼料自動給餌器が設置してある単飼ペンで1頭ずつ行った。ポケットベルは牛の首輪に装着し、以下のスケジュールにより誘導した。
@馴致期間(3日間):試験用単飼ペンに慣れさせるために馴致期間を設け、ポケットベルを振動させず、配合飼料も給与しなかった。
Aトレーニング期間(2日間):9:00、15:00、21:00、3:00にそれぞれポケットベルを40秒間振動させ、振動開始後20秒で配合飼料を必ず給与した。
Bテスト(定刻)期間(2日間):トレーニング期間と同時刻にポケットベルを40秒間振動させ、振動開始後15分以内に牛が給餌器に頭を挿入した時のみ、配合飼料を給与した。
Cテスト(不定時刻)期間(5日間):ポケットベルを振動させる誘導時刻を不定時刻・不定間隔に設定し、テスト(定刻)期間同様、振動開始後15分以内に牛が給餌器に頭を挿入した時のみ、配合飼料を給与した。
結果・成果
 牛は誘導時刻に関わらず、ほとんどの誘導で給餌器に頭を挿入して配合飼料を摂食した。振動開始時に横臥している時は、振動を感知しても給餌器に移動しない場合も認められたが、わずかであった。
 振動開始から給餌器に頭を挿入するまでの経過時間に関しては、いずれの試験日でも全頭の平均経過時間が30秒以内となり、牛はポケットベルの振動を感知するとすぐに給餌器に移動したことがわかる。
 牛は2日間(計8回)のトレーニングのみで、ポケットベルの振動に反応して配合飼料を摂食していることから、ポケットベルの振動を条件刺激、配合飼料を報酬とする条件付けのトレーニングは、短期間で完了するものと考えられる。
 牛は誘導時刻以外にも給餌器に頭を挿入しており、その回数は馴致1日目に多く、続く馴致2日目及び3日目には減少した。馴致1日目に頭の挿入回数が多くなっているのは、牛が新規の環境に対して探査行動をしたためであると考えられる。トレーニング期間及びテスト(定刻)期間では再び挿入回数が増加し、それ以降は経日的に減少した。これは、ポケットベルの振動と配合飼料の随伴関係、及び給餌器への頭の挿入と配合飼料の随伴関係を連合学習することにより、ポケットベル振動後に給餌器に頭を挿入した時のみ配合飼料が給与されるという学習が進行したためであると考えられる。
 誘導時刻以外の頭の挿入は、佇立休息直後に最も多くみられ、次いで探査行動、移動直後に多く認められた。また横臥休息時間の多い夜間における頭の挿入回数は、昼間と比較すると少なかった。
 以上より、牛はポケットベルの振動に反応して給餌器に移動し、配合飼料を摂食しており、ポケットベルの振動は牛を誘導するための条件刺激として有効であり、トレーニングも短期間で完了すると考えられる。
今後の展望
 本試験により、ポケットベルの振動を利用して牛を誘導できることが明らかになった。今後は群飼での試験を行い、個別に誘導可能かどうか検討する予定である。