|
ハスカップの果実は、野生果樹として嗜好される他にも、地場産業の振興として果実の加工についての試験が試みられており、菓子類から果実酒まで商品化が進んでいる。自生しているハスカップの食味は多様で、甘み、酸味、苦み、が主な要素であるが、系統によって強い苦みを呈するものがあり、商品開発が行う上で、果実の品質向上の要求が高まっている。しかしながら、これまでの育種の経歴は浅く、均質で食味がよく、果実の大きな品種の育成が育種目標になっている。そこで、本研究では、本農場に収集した系統の果実の品質の調査を行い、その情報をもとに系統選抜を行い、その系統を用いて果実の巨大化等を目的とした倍数体の作出により優良品種の育成に関する研究を行った。
|
|
ハスカップ(Lonicera caerulea L. var. emphyllocaryx Nakai)は、北海道大学農学部附属農場に植栽されている100余系統から、45系統を用いて実験を行った。倍加系統を獲得するための手法として、一般的に用いられているコルヒチンを用いた倍数体の作出を試みた。
コルヒチン処理の材料として実生を用いるために、ハスカップ種子の発芽条件の検討を行った。ガラスシャーレ(直径60mm)に濾紙を敷き、湿らした後に種子を置き、5, 10, 15, 20, 25℃の恒温器にて培養を行い、4週間後に発芽率の調査を行った。
コルヒチンの処理濃度がハスカップ実生に及ぼす影響を調査するために、濃度0, 0.1, 0.5 または1%のコルヒチン溶液に子葉未展開の実生を浸漬させ、20℃で6時間の処理を行った。処理後、蒸留水にて実生を3回すすぎ、シャーレ内の湿らせた濾紙上に移した。子葉が展開し、本葉が見られたものをバーミキュライトに移植し、ハイポネックス1000倍液を施肥して栽培し、フローサイトメーターによる倍数性調査に供試した。培養は20℃で行い、バーミキュライト移植後は、蛍光灯照射の室内温室で栽培を行った。生育が進んだ個体については、培土に移植後、温室にて栽培を行った。
フローサイトメーター(植物細胞から核を単離し、DAPI等の蛍光色素により核DNAを染色し、蛍光強度の測定によって倍数性を判定する機器;Partec社製 CAII)により、倍数性の調査を行った。コルヒチン処理を行った植物体の葉片を採取し、バッファーに浸漬しながら剃刀で細かく刻み、フィルター濾過により残渣を除去した後にDAPI溶液により核染色を行った。その後、フローサイトメーターにより核DNA含量の調査を行い、倍数性について判定を行った。
|
|
コルヒチン処理による倍数体誘導実験に供試するために、ハスカップ種子からの発芽条件の検討を行った。倍数体作出のためには、葉原基を含む成長点にコルヒチンを作用させ、将来、生殖細胞を構成する細胞群の染色体倍加を誘導することが肝要である。成長点を含む組織を大量に調製し、コルヒチン処理条件を詳細に調査するために、実生を材料に選び、実生を得るための種子発芽条件の検討を行った。5℃から25℃の範囲及び25-15℃、15-5℃の12時間サイクルで試験を行った結果、10℃以下及び25℃以上において発芽は完全に阻害された。発芽適温は、15から20℃の間と推定され、今回の試験では、15℃において85%の最も高い発芽率が得られた。25-15℃サイクルの試験では、65%の発芽率が得られたことから、25℃で受ける発芽阻害は低温で回避できることが予想される。また、15-5℃のサイクルで発芽が完全に阻害されたことから、15℃の発芽適温の効果は、5℃の低温で相殺されることが示された。
コルヒチンの濃度として、0.01, 0.1, 0.5 および1% を、発芽して子葉が展開する直前の実生に6時間の処理を行った。その結果、1%の処理では90%以上の実生が枯死し、0.5%コルヒチンを6時間処理した試験区から1個体の倍数体を得ることに成功した。0.1%以下の濃度でのコルヒチン処理では倍数体は得られず、これらの濃度で倍数体を得るには、さらに長時間の処理が必要であると予想される。
コルヒチン処理を行った実生について、フローサイトメーターによる倍数性の調査を行った。コルヒチン処理を行った全系統の葉片を用いて調査したところ、4倍性のピークを確認することができた。
得られた4倍体の特徴として、2倍体と比して葉色が濃くなっていることが観察された。ミノルタ社の葉緑素計SPAD-502によりSPAD値による葉緑素濃度を測定したところ、4倍体の最小SPAD値が2倍体の最大SPAD値を上回り、平均値においても4倍体の葉緑素濃度が高いことが示された。
|
|
ハスカップについて、倍数性に関する報告はなされておらず、本研究の倍数体が初めての成果となる。果実をつけるまでは数年の期間を要するが、それまで、キメラ性、生育特性、接ぎ木による着果促進等について研究を重ね、倍数体の特徴を明らかにする予定である。また、将来的には、4倍性個体と2倍性個体の交配により、3倍性個体の育成も視野に入れている。3倍性個体は、結実の際に種なしになることが予想され、同時に2倍体よりも大きな果実がつくことが期待される。種なしの系統は、ジュースやジャム等の加工の際に、品質の向上に貢献するとともに、生食時の食感の改良に繋がると考えられる。本研究では、倍数性育種を基盤にした高品質の新品種育成の基礎的知見を得ることができた。今後、倍数性個体の特徴付けを中心に研究を進め、優良系統の作出を目的に研究を進める予定である。
|