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北海道においては、TVなどのマスメディアの普及に伴って、本州方面からの観光客数と道内の観光客数が年々増加し、近年では海外からの観光客数も増加の一途をたどっている。それに伴って、観光客の受け入れのための宿泊施設の増設が急速に進んだ。また、北海道ではその広さのために観光地だけではなく、観光地に近接する主要都市における宿泊施設の増設もあわせて進行したとされる。しかし、今日まで道内の主要都市における宿泊施設の比較・検討は行われておらず、北海道における観光振興への取り組みと観光が地域に与える影響への検討は十分であったとはいえない。
本研究では、道内で観光地に近接する主要都市三市、札幌・小樽・函館を対象とし、過去10年間の宿泊施設数の推移と観光客の受入動向を検討することから、道内の主要都市における宿泊機能の変化と地域社会への影響を検証し、今後の北海道観光振興のあり方を検討することを目的とする。
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道内主要三都市における過去10年間の宿泊施設数・新設・廃業の推移を明らかにするため、各市保健所への調査によって厚生省報告例の閲覧並びに複写を行う。また、各市の観光課、北海道庁、北海道開発局への聞き取り調査を行い、各市の観光客数の推移や観光振興への取り組み、宿泊機能の変化を明らかにする。こうして収集したデータをもとに各市における宿泊施設の10年間の推移を統計的にまとめ、三市における宿泊機能の相違を検討する。またこの結果から、宿泊機能の変化が地域社会に与えた影響を考察し、三市の持つ宿泊機能が北海道観光の振興にいかなる影響を与えるのかを検証する。
なお、本研究では宿泊施設として旅館業法の規定に基づいて各市保健所に営業申請を行ったホテル・旅館を対象とし、簡易宿所・下宿は除外した。また宿泊機能については、都市機能としての宿泊機能ではなく、主に宿泊施設が受け入れる観光客受容能力を指すものとする。
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以上、調査資料を基に道南主要3都市における宿泊機能の変化を分析・考察したが、本研究で得られた成果は以下の通りである。
1) 札幌市内における宿泊機能の変化は次のようにまとめられる。マクロスケールでの分析から、札幌市内ではホテルが大幅に増加し、旅館が大幅に減少する傾向がみられる。また、客室数・収容人員ともホテルでの大幅な増加がみられ、このことからも札幌市内での宿泊機能としてのホテルの地位は相対的に高まっているものと考えられる。一方、旅館は施設自体は減少傾向が強いものの、客室数・収容人員においては漸増を示しており、このことは旅館が大型化している傾向を示していると考えられる。また、ミクロスケールでの分析はこの旅館の大型化をはっきりと示しており、宿泊機能としての旅館は大型化の進行が顕著であるといえる。
2) 小樽市内における宿泊機能の変化は次のようにまとめられる。総数においてはホテルでの増加傾向と旅館の減少傾向が明らかになった。なかでも、客室数と収容人員でのホテルの大幅な増加傾向は一方で旅館の減少傾向を顕著に表している。また、設置・廃業からもホテルの強い新設傾向と旅館の強い廃業傾向がみられる。一方で一軒あたりの客室数をみると、少なくともホテル・旅館ともほぼ同じ割合で増加していることもわかる。従って、小樽市内ではこの10年間にホテルでは施設数・客室数ともに拡大傾向にあり、旅館では施設数・客室数は減少傾向にあるものの、1軒あたりではむしろ拡大傾向にあることが明らかになった。これは、小樽市内においてホテル・旅館ともに大型化していることを示すものとして注目される。小樽市内でもこの10年間に宿泊機能が大きく変化しているといえよう。
3) 函館市内における宿泊機能の変化は次のようにまとめられる。マクロスケールでの分析から、函館市内ではホテルでの施設数・客室数・収容人員数の急速な増加傾向と旅館の大型化の傾向がみられる。函館では他二市に比べると元来旅館の宿泊機能が大きく、ホテルの宿泊機能は相対的に小さかったが、この10年間にホテルでの客室数・収容人員数が大幅に増加し、旅館の宿泊機能に肉薄するまでになっている。このことからも函館市内での宿泊機能としてのホテルの地位は相対的に高まっているものと考えられる。一方、旅館は施設自体は減少傾向が強いものの、客室数・収容人員においては着実な増加傾向を示しており、旅館の大型化傾向を示していると考えられる。また、ミクロスケールでの分析により、ホテルでは規模縮小の傾向、旅館では規模拡大・大型化の傾向が明らかになった。このようなことから、函館市内においてもこの10年間に宿泊機能が大きく変容したといえよう。
4) 三市の宿泊率・日帰り率のこの10年間の推移では、宿泊率が三市ともに上昇傾向にあることから、宿泊施設が持つ宿泊機能は三市ともに拡大傾向にあることを裏付けるものであると考えられる。また、 三市における宿泊率・日帰り率の月別変化の推移では、三市ともに宿泊率は冬場に高くなり、夏場に低くなる傾向が明らかになった。各市ともに改善の傾向はあるものの、依然として夏場の宿泊率は低い。こうした傾向は通年営業を行っている宿泊施設が持つ宿泊機能には影響が大きいと考えられる。
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三都市に共通にみられる宿泊機能の変化はホテルの増加と旅館での規模拡大の傾向である。ホテルは各市ともに増加傾向が強く、各市内での宿泊機能におけるホテルの地位は相対的に高まっているといえる。一方、旅館では各都市ともに減少傾向にあり、旅館の地位は相対的に低下しつつある。これら三都市における宿泊機能変化は旅館⇒ホテルというダイナミックな機能変化としてまとめることが可能である。しかし、旅館においては施設が減少する一方で既存の施設は拡大の傾向を強めており、本来都市内で一定の集積をみた中小旅館が消え、大型旅館に姿を変えつつあることを示唆するものとして注目される。これは地域への影響が大きい問題であり、よりミクロな調査・分析が必要である。また、宿泊率は向上傾向にあるものの、季節による変化が大きく、必ずしも宿泊機能を高める方向には向いていない。宿泊率の季節変化への対応を個別に調査し、分析していくことも重要であると思われる。
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