ホタテ貝柱を利用した教材開発 |
中村 信雄(函館白百合学園中学高等学校/理科教諭) |
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近年、児童・生徒たちに楽しく科学実験を紹介する、科学の祭典などの企画が盛んであるが、その中心となる実験は、おもに物理や化学の分野であり、生物分野は少ないようである。生物分野の実験が少ない理由の一つには、生き物などを材料として扱うため、その管理や準備に手間がかかったり、実験結果が直ちに得られにくい事などが考えられる。そこで、今回は北海道で馴染みの深いホタテガイの貝柱を利用した簡単に実施できる生物分野の実験を開発し、この実験(教材)を広く紹介することを目的とする。 | |
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筋肉を50%グリセリン溶液に浸すと、筋繊維の膜の脂質が溶け出すことにより膜構造が破壊され、収縮性のタンパク質以外のタンパク質や低分子物質の多くがグリセリン中へ拡散して除去される。また、筋繊維の構造や酵素活性は維持されておりATPを与えると収縮が起こることが知られていて、筋収縮のモデルとしてのグリセリン筋は、格好の教材である。そこで、スーパーで入手しやすいホタテ貝柱を利用したグリセリン筋の簡単な作製方法を開発したが、これに、さらに改良を加えて、簡単に実施できる筋収縮の実験を開発する。具体的には、緩衝液や塩類溶液の組成の単純化や洗浄液や試験液の簡素化を検討し、実験をより簡単に行えるように工夫し、筋肉の構造や収縮のしくみについて理解できるように教材開発したい。 開発した教材を児童・生徒に披露する。さらに、生物や理科の教育系の学会等でこの成果を発表し、多くの先生方にも利用してもらように活動する。 |
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右の2つの図(図1と図2)に示したように、ホタテガイの貝柱から簡単にグリセリン筋を調製する方法とグリセリン筋の収縮実験を開発した。 試薬はグリセリン、リン酸緩衝液(pH7.0)とATP試薬(オリエンタル酵母社製)を用意する。リン酸緩衝液はNa2HPO45.7gとKH2HPO43.6g(試薬に結合水が含まれている場合は、そのことを計算に入れて)を脱イオン水か、またはミネラルウォーター(ボルビック)に溶かして1rとし、KOHやHClでpH7.0に調製する。リン酸緩衝液を利用することによって、従来からグリセリン筋の収縮実験に使用していた洗浄液や試験液などが必要ではなくなり、実験が簡単に実施できるようになった。50%グリセリン溶液は、リン酸緩衝液とグリセリンを体積で等量ずつ、20%グリセリン溶液は、4対1に、それぞれ混ぜ合わせて作成する。ATP溶液は、リン酸緩衝液に2%濃度となるようにATP 試薬を溶かして作成する。 ![]() ![]() この研究費の助成により、次の実験実習の指導や研究発表をおこなった。 平成11年6月12日 実験実習指導 <北海道生物教育会:平成11年度第1回研究会> 平成11年9月9日 実験実習指導 <北海道高等学校文化連盟理科部函館支部大会> 平成11年9月11日 研究発表 <日本理科教育学会北海道支部大会> 平成12年1月22/23日 研究発表 <日本生物教育学会:第68回全国大会> 平成12年8月2/3日 研究発表(要旨を添付) <日本生物教育会:第55回全国大会> |
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生物分野における実験・観察の教材として、ホタテガイの活用をさらに発展させる。例えば貝柱からアクトミオシン糸を調製する実験やホタテガイそのものを形態・組織の観察材料とするなど、新たに教材としての開発をおこなう。このことにより、馴染み深いホタテガイが多目的に利用できる教材として発展し、北海道の児童・生徒に新たな興味の喚起を期待できるもの と考えている。 |
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