漁協は漁村の存在の基盤及び漁業の産業的展開の前提としても極めて重要な存在である。しかし今日、漁協は漁業を取り巻く内外の構造的変動要因によって組織的、機能的弱体化が急速に進行しつつあり、このことが(北海道のような)漁業依存度の高い地域社会においては社会問題化する危険性さえ孕んでいる。本研究は協同組合の原点に立ち、新たな社会・経済的要請への対応をふまえ、産・官・学の研究交流を深めることにより漁村の活性化を誘導しうる漁協再編成の在り方、方向について基本的検討を行おうとするものである。
1)内容
1漁協の事業・経営面の史的展開における特徴付け
2漁協の事業・経営面における現状と課題の分析(販売事業・信用事業・購買事業・自営事業・指導事業その他)
3漁協の漁場管理機能の実態、課題の分析
4漁協の組織・運動面の実態、課題の分析
5漁協の合併、事業統合問題の現状分析
6漁協再編の在り方と基本方向に関する提示
2)方法
1「北海道漁協研究会」開催を中心とする検討
本研究期間中、ほぼ2ヶ月に一度計12回の研究集会を札幌、函館、釧路、稚内等で実施した。この間の話題提供者はのべ28名にのぼった。
2実態調査(事例調査)
ケーススタデイ、ヒアリング調査、及び視察等を実施した。調査地域は漁協系統機関を中心に道内10カ所、道外2カ所であった。
1996年末の漁協決算によれば、道内地区漁協117のうち累積欠損を計上するものが50漁協にのぼった。「200カイリ問題」を契機とする漁業経営の大幅縮減と多大な固定化債権を抱える漁協が少なくないことが直接の要因であるが、基本的漁業環境・経営環境変化への対応が要請されているという意味で、今日の漁協問題は単なるリストラや組織再編(合併)をすれば克服されるというものではなく、組合員の漁業の在り方の変化を基礎として漁協の事業運営と組織・運動の全体的な再編を見通したものでなければならない。ここに今日の段階で漁協問題を考える新しさがあると思われる。
我々の漁協研究会、及び実態調査を通して以下のような基本的論点が把握された。
1道内においても漁業者=組合員の減少と分化が漁協の地域格差を増長しつつ進行しており、漁協の組織と運営、及び連合会運営の在り方の見直しが必要になった。その場合、個別経営に支えられてきた漁協の地域主義組織原理をどうするか、協同組合運営の民主制をどう保証するか、また漁業外からの新規参入問題にどのような形で積極的姿勢を示すか、などについて公正かつ合理的な判断が求められている。
2各種事業の組立てに関して、信用事業、購買事業、及び産地市場運営、販売事業などは合理性、規模性、及びシステム化が強く求められる時代ではあるが、その前提として漁協の存在の個別性の強さという特性に鑑み事業の形態論、タイプ論の検討が併せて重要であるということを強調しておきたい。漁協事業の補完体としての上部団体の役割を含め、存在の独自性ということが漁協の社会的正当性を得る要因であることを認識すべきであろう。個別的には経営破綻の構造を明らかにしつつ信用事業、販売事業を中心に今後の事業の在り方、方向を考察した。
3漁協運動の歴史性の検討の上にたてば、北海道において道漁連、信漁連等の上部団体の存在が決定的に重要であるが、今日、歴史の節目において今後の役割をどう認識するか、経営主義的偏向をどう打破するかについての検討が重要である。また、北海道漁協の「総合主義」の理念形成について歴史的、理論的検討のためのノートを作成した。
4北海道における漁協の組織再編、事業再編の見通しと方向を、今後の行政スケジュールを踏まえつつ提示したが、その際、経営維持の立場のみならず、事業の機能的妥当性、漁協職員問題、指導事業の在り方、農協との統合の模索、生協の経営問題の教訓、及び第三者・学識経験者の意見を集約しつつ広く総合的な観点で検討すべきことを明らかにした。
1本研究を出発点として、生産者協同組合としての漁協の特性に基づき単なる規模論を越えた漁協組織の再編形態と方策について提示していきたい。
2沿岸漁業と漁村の再構築、活性化にとって、漁協はその不可欠、かつ中核的存在であることが明瞭であるが、国民・市民的立場からしてそうした理解が得られているかどうかは必ずしも明らかではない。漁協の存在の社会的妥当性を確保しうる国民的合意形成の方向についての検討を進めたい。
|