糞便内抗原検出によるエキノコックス終宿主診断法の開発

神谷正男(北海道大学大学院獣医学研究科/教授)
高橋秀俊(アマネセル(有)/研究部長)
竹内雅也(札幌総合病理(株)/代表取締役)
奧祐三郎(北海道大学大学院獣医学研究科/助教授)
野中成晃(北海道大学大学院獣医学研究科/助手)
塚田英晴(北海道大学大学院獣医学研究科/研究員)


背景・目的

 北海道では平成10年度、キツネの感染率が50%を越えた。農村部のみならず都市部へもキツネが侵入する一方で、飼い犬の感染も報告された。人はキツネやイヌから排出されるエキノコックスの虫卵によって感染する。北海道大学では、多包条虫終宿主(キツネ・イヌ)に対する新しい診断法を開発し、感染後早期の診断が可能であることや、検体(糞便)を熱処理して安全に検査が行えることなど、その有用性を示してきた。本研究開発は、開発した糞便内抗原検出法の実用化に向けての評価を行うことを目的とする。

内容・方法

 糞便内抗原検出を利用した多包条虫終宿主診断法を開発し、実用化のための研究を行った。
1)有害鳥獣駆除の対象として札幌市周辺で捕獲されたキツネ76頭を剖検し、消化管内寄生虫感染状況を調査すると共に、多包条虫感染について糞便内抗原検出法の野外での信頼性(検査特異性、検出感度等)を評価した。
2)北海道の獣医師を通して飼い犬(猫)の試験的検査を実施し、390検体を検査した。

結果・成果

1)キツネの剖検調査:野外での信頼性評価のために、札幌近郊で捕獲されたキツネ76検体の腸管内寄生虫検索を行い、55.3%のキツネから多包条虫を検出した。これらのキツネの内、74頭から直腸便を採取し、糞便内抗原検出を行った。剖検結果と比較したところ、虫体を確認した42頭の内、40頭(検出感度95.2%)が糞便内抗原陽性、虫体陰性の32頭はすべて糞便内抗原も陰性であった(検出特異度100%)。
2)飼い犬(猫)の試験的調査:390件の検査依頼の内訳は、犬345件、猫17件、キツネ25件、アライグマ1件、フェネックギツネ1件、不明1件であった。犬345件の内、7件(2%)が糞便内抗原陽性であり、そのうちの4件はテニア科条虫卵も陽性であった。すなわち飼い犬が多包条虫に感染していることが示された。猫については1件でテニア科条虫卵陽性であったが、糞便内抗原は陰性であり、猫条虫感染の可能性が高いと思われる。キツネでは糞便内抗原陽性便が1件あった。その他の動物からは陽性例は出ていない。

今後の展望

 今回の調査で、札幌近郊のキツネの半数以上、さらに飼い犬がエキノコックスに感染していることが明らかとなり、感染動物とヒトとの接触機会が増えていることは間違いない。これまで感染源動物に対する有効な診断法がなかったことを考えると、エキノコックス終宿主動物の診断法開発は、立ち後れているエキノコックス症防除対策の有効な手段となり、また、流行地でのペット管理に必要不可欠なツールとなる。