石狩海岸における海浜植物の増殖技術の研究開発

原田隆(北海道大学大学院農学研究科/教授)
西村弘行(北海道東海大学工学部生物工学科/教授)
近藤哲也(北海道大学大学院農学研究科/助教授)
佐々木与三郎(石狩植物愛好会/会長)
松崎幸恵(いしかり鳥見の会)
阿部義孝(いしかりガイドボランティア/顧問)
与那覇モト子(石狩自然を愛する会)
佐渡宏樹(北海道バイオインダストリー/代表取締役社長)


背景・目的

 海浜地域は、レクリエーションの場としてあるいは自生海浜植物の生息環境として重要であり、そこに美しい群落を形成する植物は、海浜特有の景観を構成する重要な景観要素となっている。しかし、これらの海浜植物は海岸地域の開発や車の乗り入れによって徐々に失われつつある。
 本研究では、このような自生海浜植物を保全するとともに、海浜地域の景観形成植物として利用することを目的として、数種の海浜植物の種子繁殖と栄養繁殖方法に関する知見を得ようとした。同時に海浜植物の新規有用作物としての可能性を探るために海浜植物の成分と活用方法についても検討した。

内容・方法

(1)種子繁殖

 ハマエンドウとハマハタザオ種子の休眠打破の方法ならびに発芽条件を、シャーレと恒温器を用いた室内実験で明らかにした。
(2)栄養繁殖
 ウンラン、ハマヒルガオの茎節部切片ならびにハマエンドウの茎節部切片および未熟種子を、MS培地を含み、生長調節物質添加または無添加の寒天固形培地で培養し、カルス形成、シュート形成、発根および幼植物再生について調べた。
(3)成分分析と薬用的効果の有無
 石狩浜海浜植物ハマナス、ハマエンドウ、ハマヒルガオ、ハマハタザオ、ハマボウフウについて、各部位別に、生活習慣病予防で最も重要な抗酸化活性と成分分画を行った。

結果・成果

(1)種子繁殖
 ハマエンドウはその硬実性のため、結実後散布されても直ちには発芽し得ないこと、また種子に20〜60分の硫酸処理を施すことによって硬実を打破でき90%以上の高い発芽率を得られることが明らかとなった。また、硬実性が解除された種子の発芽適温は、10〜20℃の比較的低温域であり、25℃以上、とくに30℃の高温域では発芽率が低下し発芽も遅れた。
 ハマハタザオは恒温条件下では発芽率が低く、15/5℃、20/10℃の変温条件下では高い発芽率を示すことが確認できた。
(2)栄養繁殖
 ウンランでは、茎節部切片を培養すると、生長調節物質無添加区ならびにNAA 1μMとBA1〜10μMとを組み合わせて添加した区において、シュート形成率が100%となった。シュートを移植すると、NAA1〜10μM単用区で高い発芽率を示し、幼植物が得られた。
 ハマヒルガオの茎節部切片を培養した結果、生長調節物質無添加の場合に、シュート形成が旺盛で、シュート基部から発根し、幼植物が得られた。
 ハマエンドウでは、茎節部切片を培養した場合、BAを添加するとシュートを形成し、シュートからの発根が低率ながら認められた。一方、通常の播種では発芽しない未熟種子を培養すると、BA1μM単用でシュートを形成し、発根した後幼植物となった。
(3)成分分析と薬用的効果の有無、有用成分
 海浜植物5種の抗酸化活性率を標準の合成抗酸化剤BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)および天然抗酸化剤α-トコフェノール(ビタミンE)と比較した結果、特に活性の高かったのは、ハマヒルガオの茎葉部、ハマボウフウの茎葉部、ハマエンドウの茎葉部、それぞれのエタノール抽出物であった。

今後の展望

 今後は、実際に海浜において播種や苗の移植による海浜植物の導入、定着手法を開発すること、また定着後の生育状況も追跡調査する必要がある。
 さらに、導入の際には海浜植物に適した環境に導入しなければならず、それぞれの海浜植物の好ましい生育環境をも把握することが重要であろう。
 また、本研究で扱った海浜植物が食用になりうるかどうか、抗酸化活性以外の薬用効果があるのかどうかについても、今後調査する必要がある。本研究結果から石狩市における新産業創出の地域活性化につながる可能性も将来はあると信ずる。