住宅の温度環境と高齢者の居住空間にかかわる研究

佐藤勝泰(道都大学短期大学部建設科/教授)
佐藤克之(北海道女子大学人間福祉学科/助教授)
内藤克人(道都大学短期大学部建設科/専任講師)


背景・目的

 高齢者人口の急激な増加は、高齢者単身世帯の増加など居住形態に大きな変化をもたらしている。しかし、高齢者と子世帯の同居世帯は減少の方向にあるものの、依然として過半数を占めている。高齢者同居住宅を研究することは将来的にも重要であると考えられる。本研究は、積雪寒冷地における高齢者同居型住宅を、温度環境と生活の視点から検討・考察し、建築計画的な特徴を明らかにすることを目的とする。具体的には住戸内の空間構成の違いによる居住実態を見る。また、温度環境が高齢者に与える影響を明らかにする。さらに北海道と東北の地域による違いを比較、検討する。

内容・方法

 はじめに高齢者が同居する戸建住宅110戸の図面資料を収集した。対象住宅の築年数は1960年〜1998年である。内容は、住宅の平面図に家具・生活用具配置など居室の使われ方がわかる資料である。
 つぎに、その資料から北海道9戸、東北10戸を選定し典型事例調査を行った。調査内容は、温度測定記録調査、生活観察記録調査、ヒアリング調査である。
 高齢者同居住宅の空間構成と住まい方・使われ方の特徴を明らかにするために、住戸内での高齢者専用室の位置を4つのタイプに分類し、高齢者の主な生活範囲である居間と高齢者室の使われ方を見た。また、生活観察記録調査から、起床時から就寝時までの高齢者の主な生活場所を3つのタイプに分類し、空間構成と温度環境が、高齢者の生活行動におよぼす影響を比較・検討した。

結果・成果

3−1 高齢者室の空間構成
 高齢者室と居間などの公室との位置関係によって、高齢者室の空間構成や使われ方に特徴がみられた。公室から離れた1室を高齢者室としている「独立室」型は、高齢者室が就寝専用となっている事例が多い。公室から離れた続き間を高齢者室としている「独立続き間」型は2室を用途別に使い分け、独立性の高い高齢者専用空間となっている。公室に隣接した1室を高齢者室とする「隣接室」型では動線が公室を経由し複雑になっている事例もある。又、プライバシーは確保しづらい。公室に隣接する続き間を高齢者室としている「隣接続き間」型は、開口部の一方を家具などによって閉じ、独立性を高めて使用している住戸も見られる。北海道と東北の地域差をみると、北海道は、居間中心型の住様式を反映して「隣接室」型と「隣接続き間」型に高齢者室が位置づけられている。東北は、伝統的な住様式や接客空間の確保を重要視しようとしている意向が見られる。
3−2 余裕室の使われ方
 公室と個人の専用室以外の居室(以下余裕室と呼ぶ)を保持している住戸数は約7割と多い。そのうち約半数は2階に余裕室を持っている。2階の子夫婦寝室に隣接する余裕室を子夫婦専用の「補助的な居間」として使用している事例が21戸見られた。「完全同居」形式の住戸でも専用化された高齢者室や、子夫婦の補助的な居間など、世代相互の独自の生活空間が今後求められよう。
3−3 高齢者の生活と温度環境
 住戸の空間構成や温度環境と高齢者の生活の関わりを、高齢者の住戸内における主な生活場所から見ていくと以下のような特徴が得られた。はじめに高齢者が居間などの公室を中心に生活している事例を見る。高齢者室が「独立室」型の場合、高齢者室が就寝専用と割り切られ室温が著しく低い事例が東北で見られた。「寒さ」が生活場所選択の要因のひとつとなっている。高齢者室が「隣接室」型の場合、公室との開口部を常時開放し、温度を保持している事例が多い。
 つぎに、高齢者が自室を中心に生活している事例を見る。高齢者室が「独立室」型の場合、室温度が居間よりも高い事例が多い。高い温度を快適とする高齢者の特性が見られた。「隣接続き間」型では、高齢者室をL字型配置として視線を遮っている事例が見られた。世代間相互の視線への配慮は高齢者同居住宅での課題の1つといえよう。
 高齢者が自室と公室を併用して生活している事例を見る。家族生活の場としての居間と、趣味や社交の場としての自室を使い分けている積極的な生活タイプとして注目されよう。温度環境では高齢者室の温度を10℃以下とし、これを快適とする事例が東北で見られた。個々の好みによって多様な温度が選択されている事例として注目される。

今後の展望

 高齢者同居住宅では、高齢者の主な生活場所や住戸内の空間構成によって温度環境や生活にちがいがある。そしてその背景には地域の伝統的な住様式がかかわっている。それらを明らかにするために、今後もさらに継続的な調査を実施し、調査事例を増やしていく予定である。資料数がまとまった段階で数量的な分析も試みたい。また、今回実施した典型事例調査をふまえ、季節による生活の違いを見るために夏期の調査を実施する。さらに、高齢者および主婦を対象としたアンケート調査を資料にくわえ、居住意識も含めた空間構成の調査を進めていきたい。