B型肝炎ワクチン投与者における抗体獲得の検出法に関する研究

佐野友昭(北海道医療大学歯学部歯科放射線学講座/講師)


背景・目的

 従来、B型肝炎ワクチン接種に対して行われる抗体獲得の確認検査法としてはHBs抗体をHBs抗原ビーズと反応させ、その抗原抗体反応のシグナルを酵素(EIA)やラジオアイソトープ(RIA)で行うのが一般的であった。特に、本検査法を外部に依頼するような場合は検査結果が出るまで一週間程待つ必要があり、より効率的な検査法の確立が望まれた。著者はHBs抗体を保有する血漿がX線照射によるフリーラジカルの発生を抑制することをESR装置により観察した。そこで、本現象を応用しB型肝炎ワクチン接種時の抗体獲得確認法としての有用性を検討し、新たな抗体獲得の検出法を開発することとした。

内容・方法

 研究対象は本学付属病院内科にB型肝炎感染予防を目的としてワクチンの接種を希望する者である。本対象者に対しては、ワクチン各摂取時の直前に静脈血を採取し血球と血漿を分離した。分離後、血漿100μr、PBS50μr、DETAPACK35μr、そしてX線照射直前にラジカル補足剤であるDMPO15μrを加え試料を作製した。X線の照射は軟X線発生装置(SOKEN SOFRON BST1505CX)を用いた。X線の照射総線量は2Gyとした。ラジカルの測定は間接トラップ法により室温にてFrequency9.475GHz、Power4.0mT、Center Field334.5mT、Sweep Width±10mT、Modulation Width 5×0.1mT、Reciver Gain 0.4×100、Time Constant 0.1w、Sweeptaime 2.0xとした。発生したフリーラジカル量は標準試料であるMn(マンガン)のスペクトル波高との比較における相対信号強度で求めた。なお、発生したラジカル量の値は実験を3回繰り返し行い、その平均値で求めた。また、値が他と比較して極端に異なる場合はテクニカルエラーとして研究結果から除外した。

結果・成果

 本研究期間中にB型肝炎ワクチン接種を受けた者のなかで、研究の同意を得られた者ならびに本研究のタイムスケジュールに則し研究に供された対象者は衛生士専門学校の19歳の女性1名のみであった。
 初回の接種直前行った採血した血漿へのX線照射でフリーラジカルの発生を認めた。その発生したラジカルはHならびにOHの二種のラジカルを認めラジカル量はHラジカルは平均0.22(±0.002)、OHラジカルは平均0.32(±0.012)であった。また、対照として用いたHBs抗体を獲得していない血漿のラジカル量はHラジカルが平均0.22(±0.001)、OHラジカルが平均0.36(±0.023)であった。2回目接種前ではHラジカルは平均0.29(±0.019)、OHラジカルは平均0.32(±0.024)であった。3回目接種直前ではESRスペクトルではHならびにOHラジカルの波形はまったく認めなかった。従って、個々のラジカル量は測定不能の状態であった。同様に3回目接種1ヵ月後においてもラジカル量の測定は不能であった。また、同時に行われたEIA法による抗体検査の結果は陽性(反応値+106)と判定された。この検査結果は丸5日間を要した。一方本研究におけるラジカルの測定時間は採血からでは平均2時間以内であった。なお、装置の立ち上げならびに試薬の解凍などの準備時間を除くとX線照射からESRの測定までは平均15分以内で終了した。本研究の合計4回のラジカル測定において、3回目と4回目の測定ではX線により本来血漿から発生するはずであるラジカルがESRで観察不能となりHBs抗体獲得を示唆する結果が得られた。特に、4回目の測定では同時に行われた院外発注による血液検査において抗体の存在が確認されESRの結果と一致した。ESR装置によるHBs抗体獲得の検査方法は信頼性の高い新しい画期的な方法であると考えられる。
 最初に本研究に供した研究協力者が1名であったことについての注釈を加えなければならないと思う。この異常に少なくなった原因として、本研究の性質上、最終的な抗体獲得の検査結果が判明するのが初回のワクチン接種から少なくとも7ヵ月以上あとになることから、研究に供する対象者が98年の8月から12月までの間に接種を受けた者でないと研究結果がまとめられないため期間が限定されたこと。そして、一番の原因と思われるのが近隣にある本学の関連医療施設で同様のワクチン接種を行っているが、そちらの方の接種料金(12,000円)は本学(23,000円)に比べ約半分に設定されており、ほとんどの接種希望者がそちらに移行してワクチンを接種したことが原因となったと考えられる(99年3月に料金は統一された)。従って、現時点ではデータの数が少なすぎるので、現在も研究継続中であることをお断りしておく。しかし、前記事項を除外しても一応の成果はあったと考えている。

今後の展望

 今後の展望として、1)操作機器をより簡略化することは可能か。2)操作時間をより短縮化することは可能か。3)より必要とする試薬などのコストを下げられるかなどの検討課題があり、1)ではラジカル発生装置として歯科用光レジン照射器の使用による代替、2)ではX線量の変更により検査時間の短縮が可能であると考えられる。3)では現時点では一回約1,000円以下と思われる。今回、著者が行ったB型肝炎ワクチン投与者における抗体獲得の検出法に関する研究は、実用性の高い将来有望な新たなる検査法であるといえる。今後のさらなる多くの臨床例の結果が望まれるものである。