手術後の早期回復と生活の質を向上するために、健康組織を傷害することのない新しい治療法の考案が強く望まれている。Recombinant
human
BMP-2(rhBMP-2)の基礎研究が進展するにつれて、rhBMP-2の強力な骨誘導能から骨関連疾患への臨床応用が期待されている。RhBMP-2を用いた頭部骨膜下骨増生実験の担体として、従来非吸収性無機材料が使用されてきた。今回、吸収性有機物であるコラーゲンに注目し、アテロコラーゲン溶液を凍結乾燥して加圧することで一定の形状が得られることと操作性に優れていることに着目して、BMPの担体として使用した。実験動物としては老齢期ラットを用い、挙上部の骨組織形成機構とコラーゲンの吸収変化を形態学的に解明し、rhBMP-2担体としてアテロコラーゲンの有用性を評価することを目的とする。
1.BMPと担体の複合化
Recombinant human
BMP-2(10μn;山之内製薬供与)を含むPBS溶液と0.3%I型アテロコラーゲン酸性溶液(3.3p;高研)を滅菌チューブ内に加えて混和後凍結乾燥する。対照として、コラーゲン酸性溶液(3.3p)のみを凍結乾燥する。なお、埋入前にステンレス棒を用いて円錐台状に加圧整形する。
2.実験動物・埋入観察方法
全身麻酔下で18ヵ月齢ウィスター系雄性ラット(老齢期に相当)頭部骨膜下の矢状縫合部上に埋入物を挿入する。1、2、3、6、8週後に摘出し、試料は固定脱灰後、ヘマトキシリン−エオジン染色を施し、光学顕微鏡で骨膜と増生骨、頭蓋骨、担体コラーゲンを組織学的に観察する。また形態計測法により、挙上高さの推移と硬組織、結合組織、残留担体の分布面積の推移を測定する。
剥離挙上骨膜下にアテロコラーゲンのみを埋入しても硬組織形成は全く認められないが、rhBMP-2添加アテロコラーゲンにより既存骨から骨膜下に至る骨増生が得られた。BMP群において、1週後骨膜下に骨芽細胞と類骨様基質の産生が認められ、2週後には多数の骨細胞が封入した厚い線維骨に発達した。3週後には埋入物中央部に細胞・血管の侵入がみられ、胞体の大きな骨芽細胞の増殖とアテロコラーゲン線維への添加性骨形成が認められた。4週後には骨梁の連続性が増加して増生骨は頭蓋骨と結合していた。6週後には、担体コラーゲンは吸収され骨に置換され、リモデリングが進行した。8週後には骨髄のスペースが拡大するとともに骨の緻密化が観察された。
吸収性有機物であるコラーゲン凍結乾燥物は不溶性度が高く、形状付与と操作性に優れており、人工基質として一定期間役割を果たした後に新生骨によって吸収置換されたため、生体内に残留することはなかった。
骨膜の骨形成に関する重要性は古くから指摘されているものの、実際に骨膜を剥離してコラーゲンを介在させて挙上すると骨膜表層の骨芽細胞は消失して、本来の骨膜構造と骨形成能機能が認められなくなることが本実験により明らかとなった。一方、傷害を受けた挙上骨膜下にBMP添加複合物を挿入すると骨膜下に骨形成が起こることが確認された。これらのことから、骨膜は剥離による傷害を受け、異物と接し、血液あるいは骨基質由来の栄養供給に乏しい環境下では、本来の骨形成能を有する骨膜に再生されないものの、rhBMP-2の存在により骨膜は再生されると考えられる。
以上より、BMP−コラーゲン複合物によって母骨と均質な骨増生と骨膜の再生が得られた。これにより、非吸収性材料を用いた再建法では不可能であった歯牙移動やインプラントの植立も可能となり、顎裂部の骨架橋と転位歯の矯正移動による咬合の確立やインプラントによるオーラルリハビリテーションの成功に多いに貢献することであろう。さらに、実験動物は老齢期に相当する代謝活性の低下したラットであるため、高齢化社会に対応した結果であり、臨床的にも極めて重要な意義を有するものと考えられる。
組織再建医学から再生医学へと医療の質の変革期が21世紀に確実に到来する。今回、骨構成主要基質であるコラーゲン成分と成長因子であるBMPを再構築することで健康組織非侵襲で生体骨に置換可能な治療法の開発と骨増生に成功した。今後、骨形成には必須である血管形成の促進に注目して、コラーゲンの構造を細胞・血管の侵入しやすい多孔質・樹枝状構造に改良するとともに血管新生因子である線維芽細胞増殖因子を共添加して生体骨に類似した吸収性組織誘導材料の開発に着手し、未来医学としての硬組織再生治療に貢献したい。
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