酸化亜鉛に波長400nm以下の光を照射すると強い酸化力を有する電子ホールが生成し、これを利用して水から酸素を採取することが可能である。酸化亜鉛の場合、電子ホールの生成効率はこれまで多く研究されてきた酸化チタンよりも高いが、酸化亜鉛は光照射によって溶解することが問題である。本研究は酸化亜鉛と酸化チタンを混合することによって光電気化学腐食を抑制できることを示すとともに抑制メカニズムを解明し、さらに水からの高効率な光電気化学的酸素採取の方法を提案することを目的として行った。
(1)酸化亜鉛と酸化チタンの混合電極の作成
チタン板上に亜鉛を200nm電気めっきした。めっき試料を大気中673で2hr保持し酸化物皮膜を生成した。
(2)光電気化学特性の評価
光電気化学特性はキセノンランプ光照射下、pH=4.7、8.4に調製した0.1
M
KCl水溶液中で電流−電位関係を測定し、さらに単色化した150Wキセノンランプ光を用い、電極電位−1
V vs.Ag|AgClで測定する事によって評価した。
(3)光電気化学腐食挙動の評価
光電気化学腐食挙動は400Wキセノンランプ光照射下−1.0 V
vs.Ag|AgClの電位で最長60hrまでの定電位電解を行い、その際に溶出するZn2+イオン量を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES,島津ICPS
4000II)で測定し評価した。
(4)光電気化学腐食試験前後での試料の物性評価
それぞれの試料の結晶構造、表面化学組成はX線回折、X線光電子分光分析で調べ、表面形態は走査型電子顕微鏡で観察した。
(1)酸化亜鉛と酸化チタンの混合電極の物理的性質
光電気化学腐食試験前における電極のX線回折測定の結果、めっきした亜鉛のすべてが酸化され、チタンとの混合酸化物に転換したことがわかった。また、光電子分光分析の結果、試料表面の大部分は亜鉛の酸化物に覆われているが、チタンの酸化物も20%程度生成していることがわかった。これは下地のチタン原子の一部が酸化処理中に外方へ拡散したことを示している。
(2)混合酸化物電極の光電気化学特性
光照射の無い場合、電極電位が負の場合には水素発生反応電流が観測されるが、正の電位領域では電流は流れない。これより混合酸化物電極はn型半導体であることがわかった。光照射下で正の電位に分極すると光電流が観測され、電流は電位の増加とともに増加した。この電流値は酸化チタンに比べ約10倍程度であり、本研究で作成した混合酸化物電極が高活性であることがわかった。次に照射する光の波長と光電流の関係を調べたところ。混合酸化物の光電流は酸化チタンよりも長波長な、およそ400nm以下の波長で観測された。太陽光のスペクトルは400nm以下の波長範囲では波長の減少とともに急激に減少するので、本研究で作成した混合酸化物は太陽光を用いたエネルギー変換の目的で使用するために好都合であることがわかった。
(3)混合酸化物電極の光電気化学腐食挙動
混合酸化物電極をキセノン光を照射下、pH=8.4の水溶液中で長時間定電位電解した場合、試験初期には亜鉛が活性に溶解するが、溶解速度は時間とともに減少して、ほぼゼロに達する。1週間の実験後、溶解Zn2+イオン量は電極中の全亜鉛量の約30%に相当し、残りの70%は電解後も残存した。電解後の表面組成を光電子分光分析した結果、上述と同様の結果を示した。pH=4.7
の水溶液中で電解した場合にはZn2+イオン溶出量はpH=8.4の場合より多いが、溶解速度はpH=8.4の場合と同様の傾向を示し、約1週間の電解後にも表面には亜鉛が残存し、酸化チタンに比べて高い酸素発生反応活性を示した。
光電気化学腐食試験前後での電極表面を観察した結果、pH=4.7の水溶液で試験した試料はわずかに形態の変化が見られたが、pH=8.4の水溶液で試験した場合には形態変化はほとんど見られなかった。これは前述の亜鉛溶出量測定結果と一致する。
以上の結果から、混合酸化物電極の場合、光電気化学腐食反応は初期には起こるが、その結果電極表面のチタン濃度が増加して腐食を抑制し、かつ酸化チタンが濃縮した表面直下に酸化亜鉛が残存することによって電気化学的酸素発生反応に対して高い活性を示すと考えられる。
本研究では、亜鉛−チタン混合酸化物皮膜を作製し、生成した皮膜の光電気化学的腐食挙動および酸素発生反応に対する活性を検討したところ、亜鉛をめっきしたチタン板を熱酸化することにより、亜鉛−チタン混合酸化物皮膜が得られ、亜鉛−チタン混合酸化物皮膜は電解の初期には光電気化学的に腐食するが、その結果表面にはチタンが濃縮し、腐食が抑制されることがわかった。その際、チタン濃縮層の直下にある残存酸化亜鉛が光応答し、酸素発生反応に対する高い反応活性を持続すると考えられる。本研究で用いた電極調製方法は簡単であり、これまで腐食のために実用化が難しいとされてきた種々のナローギャップ半導体にも適用可能であると考えられる。
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