パイプ型高温超伝導体によるリニアモーターカー

永田敏夫(北海道立理科教育センター/物理研究室長)


背景・目的

 理科や科学技術が生活の中で当然のものとなり、そこに興味や関心を示さない世代が増えてきている。これらの市民や子供たちに科学の不思議さを体験してもらい、その楽しさすばらしさを味わわせることが重要である。特に、高温超伝導体の場合、液体窒素を用いて先端科学を体験できる素材である。
 そこで、本研究では、イットリウム系銅酸化物超伝導体をまず作成し、さらに酸化銅を添加したピン止めの効果の高い超伝導体をまず作製し、形状を工夫するなどして科学の祭典でデモンストレーションを行い科学技術に対する理解を深める普及活動を行うことを目的とした。

内容・方法

 まず、920℃で2昼夜ほど仮焼きした超伝導体を粉砕し、焼結させるための直径3.5cm、6.5cm、10cmのピストンとシリンダーを作成して円盤状の大型超伝導体を作成した。このノウハウを生かし、大きさや形をかえ、大型のものや円筒形の新しい形状の超伝導体を作製した。銅酸化物超伝導体に酸化銀等のピン止めセンターになる物質を添加すると強いピン止めが生じ、超伝導体を磁性体のように扱うことができるようになる。
 作製した超伝導体を利用して、超伝導によるマイスナー現象の観察やピン止め現象を観察し、超伝導に伴って起こる不思議な現象を多くの人たちに体験してもらい、科学技術の素晴らしさ楽しさを味わい、更に興味を持って科学を探究したり、普及活動の支持者を増やしていく。

結果・成果

 発泡スチロール容器に液体窒素を入れて超伝導体を冷やし、その上にネオジウム磁石を置くと磁石は反発して浮上させることができる。同様のことは、磁気玩具の駒でも行うことが出来るが安定点を見つけるのが難しい。これに対して超伝導体の場合は容易に安定して浮上させることが出来る。これを説明するために、今回新しいデモンストレーション手法を開発できた。
 超伝導体を10個程度作製してバット型の発泡スチロール容器に並べ、液体窒素で十分冷やして、ネオジウム磁石を置く。磁石は置いた超伝導体の隙間に寄せられて安定する。また、この隙間に沿ってはスムースに運動することが出来る。このことから、マイスナー効果は磁力線が超伝導体内部に入り込まない現象と考えられるが、逆に隙間の部分には充分よく通るということができる。超伝導体には置かれた磁石と逆向きの磁界が発生して反発力を与えるが、隙間は磁力線が通るのでガイドの役割を果たすことが理解できることが分かった。
 この仕組みをミクロな状態で起こしているのがピン止め現象で、イットリウム系の超伝導体に銀粉末を入れ、この働きをすることも演示することができた。
 中空部分を利用して効率よく冷却し超伝導体を安定して浮かせることができないかと考えたのがパイプ型超伝導体である。レールはネオジウム磁石をスチール製円盤の上に3列に並べて造りこれを周回させた。グラスウールで超伝導体を包み、アルミニウム箔を巻いて液体窒素に漬けてから割り箸で挟んでレール上に置いたところうまく滑走させることができた。磁石を3列に並べると磁力線の谷間ができ、滑走体がその谷間に落ち込んで外側に飛び出さない。モノレール型コースターの滑走体として試作したが、冷却効果は上がるが、中空部部がピン止めの働きを強め、動きがかえって滑らかでなくなり、モノレール上を移動させるには適切な形状とはいえないことが確かめられた。
 科学の祭典室蘭大会、北見大会でデモンストレーションに利用した結果会場で多くの観客を引きつけることができ普及活動にも貢献した。

今後の展望

 高温超伝導体が従来ディスク型のものばかりであったが、タイル型やパイプ型など多様な形のものを作製できることが分かった。従来は長いものの場合は磁石の上に小さい超伝導体を置いて走らせる形態のみであった。しかし、リング状の超伝導体やパイプの超伝導セラミックを焼き上げることができればデモンストレーションについても新たな展開が期待できる。今後、超伝導セラミックを接続したり延長したりする方法について更に研究を進めていくとより親しみのあるデモンストレーションができ、教育効果もあがるものと期待される。