エネルギープラント機器の余寿命診断技術の開発

小野 信市[ (株)日本製鋼所室蘭研究所/所長]
茅野 林造[ (株)日本製鋼所室蘭研究所/研究員]
和田 洋流[ (株)日本製鋼所室蘭研究所/研究員]
石垣 良次[ (株)日本製鋼所室蘭研究所/研究員]
杉本 隆之[ 日鋼検査サービス(株)/研究員]
三沢 俊平[ 室蘭工業大学材料物性工学科材料設計工学講座/教授]
背景・目的

鋼の焼き戻脆化は、鋼中に含まれる不純物元素量(Si, P,Mn,Sn)が多いほど脆化が進行し、焼き戻脆化感受性を化学成分からある程度定量的に予測しうることが過去の研究で明らかとなっている。本開発では非破壊的にこれら微量元素を定量分析すべく、実機の表面に装着されたセル内にて電解液を満たして電解し、それらを分析し不純物元素量を定量する方法を提案した。本開発では、電解セルを使用した定量分析の実験室的試行を行い、精度に優れた分析方法、電解条件を確立し、さらには当該電解セルの現場適用性について検討した。

内容・方法

実験室レベルでの電解溶液分析の定量操作の検討を行った。その結果、分析法としては、湿式分析法を適用し、電解液としては、酸反応がなく、分解の容易な1%HA液とした。これらの方法により、従来の電解法で電解された溶液をJIS鉄鋼分析法で分析した結果、供試材分析値とよく合致し、分析精度も良好であった。
電解セル法が実験室法と異なるのは、電解による溶出金属重量は測定できない点であり、理論電解量と実際の電解量が精度よく一致するか検証する必要がある。多試料の電解実験を行ったが何れも上記の理論電気量では1gの電解量には至らなかった。検討の結果、電流密度が低い程、また電極/被検面間距離が大きいほど(80mm〜)測定された電解量が理論電解量(=1g)に近づき、且つばらつきが小さくなることが判明した。 
結果として以下の条件において電解を行うこととした。
1. 電極間距離 80mm以上
2. 電流密度 15mA/cm2
3. 電解温度 室温程度(40℃を超えない事)
4. 不活性ガスバブリング 無
5. 予備電解 無

結果・成果

以上の基礎試験結果より、電解セル仕様を被検面距離100mm、電流密度15mA/cm2として製作した。電解セルを製作するにあたって留意した点は以下の通りである。
1.電解液を漏らすことなく捕集できること。
2.付着残さも同様に残留せず隅々まで洗浄できる簡    単な構造であること。
3.材質は耐アセトン系有機溶媒材であること。
4.電解時間は実用上、2時間程度以内であること。
1.2.に関しては排出口付近に傾斜をもたすこと。3.に関してはテフロン材を当初使用前提としていたが、市販の素材が限られており、バルク材からのセルの削り出しが必要なこと等、高価であること。また2.の内部が洗浄されたかの確認には透明部分が必要なことから、透明アクリル材の適用性について検討した。アクリル材を長時間電解液に浸した結果、分析精度に何ら影響は及ぼさない事を確認した。このため、本実験にはアクリルパイプおよび板を切削、加工し、セル本体に適用した。またガスケット材にはテフロン製ガスケットを用いた。4.に関しては電解表面の有効径をφ70mm、直流電源容量を110V-0.6A装置を用いることで、約2時間半で理論電気量の3517.8C(=理論電解量1g)に達する様にした。これらを2.25Cr-1Mo鋼プラント機器の表面に適用した。表面処理はグラインダーで錆を落とした後、実験室の電解と同様の400#程度までペーパー仕上げとした。
電解後、クーロンメータが3517.8Cになった時点で電解を停止し、電解液を専用ビンに捕集した。実機表面および容器内面に付着した残さ等はメタノール洗浄を行い、洗浄液は捕集ビンに一緒に回収した。電解後の表面の減肉はほぼゼロであり、機器を変形、減肉させることなく非破壊的に測定が可能であることが確認された。
持ち帰った捕集電解液について微量元素P,Si,Mn,Snについて上述の方法で定量分析を行い、通常の化学分析値との比較を行った。P,Si,Mn,Snの結果は通常の化学分析値と良好な一致を示し、焼き戻脆化度を判定するに十分な精度があることを確認した。

今後の展開

電解セルはアクリルもしくは工業用プラスチックにより容易かつ安価に製作でき、この他に必要な測定機器は、直流電源、クーロンメータ−のみであり簡便であり、現場での実現性が高く、発電や石油精製設備の余寿命診断技術の一助として期待できる。今後は下記を応用分野として展開してゆきたい。
・今後さらなるデータを積み上げることにより、精度の検証を行う。
・コーナー部複雑形状部にも対応するようガスケット部等の工夫。
・今回の供した圧力容器鋼のみならず発電用部材等にも適用。
・電解液から抽出された析出物や炭化物の採取性などの検討
・その他の脆化要因元素(Cu,As,Pbなど)についての定量を行う。