介助労働を軽減する装着型パワーアシスト装置の開発

横井 浩史[ 北海道大学大学院工学研究科/助教授]
西村 昭男[ 日鋼記念病院NHS研究所/所長]
鈴木 賢次[ (有)電気工作業の鈴木/取締役]
清野 栄司[ (有)司機工エンジニアリング/代表取締役]
背景・目的

高齢化社会の到来に伴い、介護の問題は行政や医療機関のみならず様々な分野において不可避な問題として現実化しつつある。このような現状に加え、今後も増加が予想される身体に不自由さをかかえる人の介助に当たっては、特に起こしたり抱え挙げたりする場合には、介助者には相当な腹筋・背筋力を必要とし、多大な労力と苦痛を与えてきた。
本研究開発では、筋肉の動きに連動して適切なアシスト力を介助者に与え、腰部の負担軽減など介助労働の筋力的な苦痛を軽減する「装着型(ウェアラブル)」型のパワーアシスト装置を開発する。

内容・方法

開発対象となるパワーアシスト装置は、介助者の筋肉の緊張度に応じて発生する筋肉電位を信号として取り込み、介助者にとって自然な動作を実現できるように最適なアシスト力を発生し負荷状態にあわせて労働時の負荷を一部負担する装着型の補助機械である。そのため、介助者の意図を計測し適切な制御信号を出力するための「生体適合型計測制御器」と着脱可能なアシスト機構として「装着型パワースーツ」を開発が主たる課題となる。
「生体適合型計測制御器」
・意図解析ツール、生体信号適正化ツール、干渉駆動制御信号発生ツールなどの開発。
・小型軽量のために制御装置のハードウェア化にあたり、パッケージングMPU化、および小型筋肉電位センサおよびアンプの開発。
「装着型パワースーツ」
・様々なアクチュエータによる適性動作を実現できる大トルク能動型アシスト機構を開発。
・小型軽量化と脱着の容易な衣装設計を行い、試作、実際の介護の現場での実証確認

結果・成果

本研究においては、「生体適合型計測制御器」と「装着型パワースーツ」の二つの大きな課題とその「評価試験」に対して、それぞれ以下の結果・成果が得られた。
「生体適合型計測制御器」
(1) 表面筋電位信号の解析
筋肉の動きに連動して適切なアシスト力を介助者に与えるため、表面筋電位を用いた介助者の動作の解析をおよび分類を行った。前腕、上腕、腹筋、背筋などの部位を用いて計測を行ったが、結果として咬筋直上の表面筋電位を用いることによって、装置の操作を自在にコントロールできることが可能となった(意図解析ツール)。また、表面筋電位信号は、大きな個人差があるが、適応型学習機構を研究・開発することにより短時間(数十秒)で個人差に対応することが可能となった(生体信号適正化ツール)。
(2) アシスト力の制御
筋肉電位信号は、発生する筋力が大きな時に大きな信号が計測されることが知られている。ここでは、前項で得られた結果を利用して、介助者の発生筋力を推定することにより適切なアシスト力を決定する方式を開発した(干渉駆動制御信号発生ツール)。
(3) 制御装置の小型軽量ハードウェア化
装着型のパワーアシスト装置を実現するため、表面筋電位信号処理のための解析ツールのパッケージングMPUによる実装と、小型表面筋肉電位センサおよびアンプの開発により、制御装置の小型・軽量化を行った。
「装着型パワースーツ」
(1) パワースーツの開発
長時間装着しても違和感を感じさせないパワースーツには、軽量化、着脱の容易さ、通気性や強度などの機能性、および衣装デザインの各点を考慮する必要がある。ここでは、介助者の身体をしっかりとホールドできるようにハーネスと熱可塑性プラスチックを用いて簡便に調整が可能であるスーツを開発した。
(2) 動力装置の開発
介助労働に要求され力は非常に大きく動作速度も比較的速いため、様々な機構とアクチュエータを吟味した。本研究開発では、ボールねじを利用した牽引機構とステッピングモータを利用した動力装置の開発を行った。これは、最大200Kgに荷重に耐えられるように製作されており、また自然な介助動作に十分追従できる速度を達成している。
「評価試験」
本研究で開発したパワーアシスト装置を評価するため、大学研究室と実際の介護の現場である病院とでフィールド評価実験を行った。その結果、表面筋肉電位を用いた外部スイッチ持たないパワーアシスト装置が有効であり、今回試作した装置により抱き抱え(リフティング)動作が補助可能であることが検証された。また、介助の現場で用いるには、更なる小型・軽量化とさらに短時間(5秒程度)でのスーツの着脱が望まれることが指摘された。

今後の展開

今回試作した装着型のパワーアシスト装置は、筋肉電位を用いることにより自然で使いやすい動作補助は充分実現可能であることが検証された。今後、さらに短時間で装着可能なパワースーツと装置の小型化を行うことにより、一層使いやすいパワーアシスト装置となり、結果として、介護施設はもとより一般家庭においても介助労働の負担が軽減でき、高齢者介護などに十分な介護提供が可能となる。さらに本成果が道内企業により実用化・製品化が行われるならば、新たな介護産業の創生につながると共に北海道経済の活性化にも貢献できるであろう。