遺伝子型に基づく癌の遺伝子発現アレイ・パターン診断技法の開発

多田 光宏[ 北海道大学遺伝子病制御研究所/助教授]
守内 哲也[ 北海道大学遺伝子病制御研究所/教授]
丸田 幸夫[ (株)ラボ ジェネティック事業部/主任研究員]
西村 訓弘[ (株)ラボ ジェネティック事業部/主任研究員]
背景・目的

研究代表者はこれまで酵母の優れた特性を利用して、酵母内にヒト遺伝子を発現させ、酵母のADE2遺伝子をリポーターとしてヒト遺伝子の変異の有無を判定する種々のアッセイを開発した。それらをヒトの癌症例に応用し複数の遺伝子変異を同定してその臨床的意義を明らかにしてきた。一方、共同研究者の丸田・西村らは東洋紡績株式会社と共同でDNAアレイの開発研究を行い、簡便で、再現性・感度の面で優れたDNAアレイフィルターの開発に成功し、今春キットとして販売を開始している。こうした技術的背景を基に申請者および共同研究者らは癌の予後判定・治療反応性判定に有用な遺伝子群をスポットしたDNAアレイを開発し、本道を拠点に市場に問うための研究を提唱した。

内容・方法

本研究開発は(1)癌の細胞株を用いた研究ステージ、および(2)臨床癌症例を用いた研究ステージの2段階に分けて行われている。
〈ステージ1〉145株の癌の細胞株を用いた研究
A.1.p53変異の同定を酵母p53機能アッセイにて、2.PTEN遺伝子変異の同定をPTENストップコドンアッセイにて、3.APC遺伝子変異の同定をAPC yeast color assayにて行った。4.膵癌についてはK-rasとH-rasについてシーケンシングにて活性化変異の有無を決定し、Akt/PKB活性化の有無をWestern blotにて検討した。
B.遺伝子型が判明した細胞株についてDNAアレイフィルターで1300の遺伝子の発現パターンを検討する。得られた発現パターンから各遺伝子変異により再現性・特異性よく出現する遺伝子集合を明らかにし、変異の有無をパターン診断するための専用DNAアレイフィルターを作製する。
〈ステージ2〉臨床癌症例を用いた研究
実際の癌症例の凍結組織標本について専用DNAアレイフィルターにて解析を行う予定である。

結果・成果

現在研究ステージ1について研究を施行中である。研究ステージ2については今後の展望に記載のとおり現在、臨床症例の蓄積を行っている段階である。従って、本研究はいまだ完了しておらず、研究成果報告書は研究の完了を待ち提出の予定である。

【研究ステージ1の結果】
使用した細胞株は胆道癌4株、膀胱癌1株、脳腫瘍6株、乳癌35株、大腸癌13株、線維肉腫1株、胃癌9株、肝癌9株、肺癌22株、悪性黒色腫8株、扁平上皮癌7株、骨肉腫1株、卵巣癌9株、膵癌18株、腎癌2株の計145株である。P53変異は胆道癌3/4株、膀胱癌1/1株、脳腫瘍6/6株、乳癌29/35株、大腸癌11/13株、線維肉腫0/1株、胃癌7/9株、肝癌8/9株、肺癌17/22株、悪性黒色腫1/8株、扁平上皮癌6/7株、骨肉腫1/1株、卵巣癌8/9株、膵癌14/18株、腎癌0/2株の計113株(78%)に認められた。APC変異は大腸癌7/13株(54%)、胃癌2/9(22%)、卵巣癌3/9株(33%)に認めた。PTEN変異は胆道癌1株、脳腫瘍1株、大腸癌1株、胃癌1株、膵癌2株に認めた。
現在、これらについて1300遺伝子を搭載したDNAアレイにてmRNA発現プロフィール解析を行っているところである。この発現データを名古屋大学の岩田彰教授の協力を得て、ニューラルネットワーク(CombNet?)にて解析し細胞株の種類と発現プロフィール、および遺伝子変異の有無と発現プロフィールの関係を明らかにする予定である(8月下旬〜9月)。

今後の展開

細胞株のアレイ解析の終了を待ち、それをニューラルネットワークにて解析して、遺伝子変異をアレイ発現プロフィールにより診断する方法を確立し、その方法について特許を申請するとともに、癌専用アレイフィルターを新たに開発する。現在、北大腫瘍外科(加藤教授)の協力のもと、道内31施設から、胃癌、膵癌、胆道癌、肝癌、肺癌、乳癌の6腫の癌について各年間100例以上、3年間で総数3000例におよぶ癌の症例を癌専用アレイフィルターにて解析する準備を進めている。これら癌のアレイ解析結果と臨床パラメーター(予後、転移、薬剤放射線感受性など)との関係を岩田教授の協力で、ニューラルネットワーク解析にて明らかにする予定である。こうして得られたでーたをもとにネット上に遺伝子発現プロフィール解析のサイトを設け、癌専用アレイフィルターとその解析を事業として行う予定である。