日本の沿岸では漁網や船底に対する汚損生物の付着防止に用いられる薬物(防汚剤)によって、有用な海藻・貝などに生育不良や奇形といった症状が見られている。このように生態系に多大な影響を与え、海洋汚染の原因ともなり得る薬物徐放型の防汚剤の使用は全面的に禁止されるべきであり、これに取って代わる防汚処理法を見つけることが急務であると考えた。本研究は海洋生物(特にコンブ)の付着阻害に適した表面特性を持つ高分子ゲルを作製し、環境に対して限りなく無害な新規の防汚法を開発することが目的である。 内容・方法 ゲルとはいかなる溶媒にも不溶で、高分子鎖が3次元的な網目構造を取り、溶媒を含みながらも形状を保持できる状態にある物質を指す。また主鎖もしくはそこから枝分れした側鎖にある分子によって、化学的性質や表面性、機械的強度のような様々な物性を容易に変えることができる。当研究室では、血管内皮細胞とゲルの相互作用に関して、その接着・伸展がゲルの表面物性によって大きく異なることがわかっている。コンブやワカメなどの海藻類から遊走子(胞子)を採取し、それらを化学構造の異なる合成高分子ゲルや生物由来の天然多糖ゲル上に蒔種・培養し、発芽の様子を観察評価する。 結果・成果 アルギン酸ナトリウムやアガロースゲル、キチンキトサン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの誘導体等、生物由来の天然多糖ゲルに蒔種した場合、全て発芽が確認された。また合成高分子のゲルについても正常に発芽・成長した。一方特殊な化学構造を持つゲルにおいては発芽率に若干の低下が見られ、製造方法によっては発芽率は0%となり、優れた発芽抑制効果を示した。そしてこれら効果のあったゲルに関して、合成高分子と天然高分子のコンポジットゲルを用いたところ、全てにおいて正常な発芽・生長が見られた。これらの結果から、発芽の抑制効果には単にゲルの膨潤度や橋架け密度だけでなく、精密な化学構造の存在が重要であることが明らかになった。 今後の展望 ゲルは一般的に機械的強度に乏しく、工業的な利用は難しいとされてきた。しかし最近当研究室で非常に高い強度を持ったゲルの作成法が開発され、研究が進められている。またプラスチックにゲルを固定する技術がすでにわかっているので、今後防汚効果の高かったゲルを用いて、より実用に近い実験を進めていく事が可能であると考える。 |