環境保全型河川計画と景観構築に係る計画技術の研究

山本  充[
八木 宏樹[
小林 敏克[
小樽商科大学商学部/助教授]
小樽商科大学商学部一般教育等/教授]
北海道建設部小樽土木現業所治水課/河川係長]
大谷 直史[ (株)北海道技術コンサルタント川づくり計画室/技師]
背景・目的

地域の河川整備を行う場合、これまでは治水や防災機能を重視した設計が行われてきた結果、中小河川では市民生活と関わりがない状態が生じてきた。その原因としては河川に物理的に近寄れない、水が汚れている、無機質な景観などの理由が挙げられる。これからの河川整備は、アメニティの場としての河川の有効利用も図らなくてはならないが、市民の望む河川形態や環境復元のための基礎資料が不足している。本研究では小樽市内を流れる勝納川を例にとり、河川と市民の共存共栄を図るための基礎調査を行うとともに、生活や教育の場としての河川の設計を行い、河川環境改善計画に反映させることを目的とする。

内容・方法

勝納川再生事業計画による景観と環境への影響を社会経済学的及び理化学的な見地から総合的に検討し、将来の景観に配慮した河川計画の検討を行った。市民意識については大人を対象としたアンケ−ト調査を行い、当該河川の現状評価や計画評価と水辺利用における価値観に関するAHP法の調査を行った。また、小学生を対象とした調査では、子供の遊び空間の利用実態、子供の遊びにおける自然空間の位置づけ、子供の地域空間の認識、子供の勝納川に対する認識を明らかにすることを目的として、アンケート調査と地域マップ調査を行い、子供と河川・環境との関わりについてアンケートや実地調査により子供の環境学習や遊び場としての河川のあり方についても検討を加えた。さらに、水質調査や生物相調査を行い、環境マップを作成し、地域の社会経済活動に対応した計画や環境教育の場として利用可能な施設整備の方向性について検討を行うとともに、水質改善のためには流域全体における対策が必要なため、勝納川支川についても現況と対策の方向を示した。

結果・成果

物理環境・化学環境・生物環境調査の結果から、支川と本川の合流部で水質汚濁が確認されたが、勝納川の自浄能力は存在するものと判断された。そこで対策としては、再生事業との関連から景観に配慮することが望まれるため水生植物による浄化が望ましいと結論付けられた。水生植物による浄化では、単に浄化機能のみならず緑化としての意味や生物の生息環境の創出としての意味も併せ持つことになるため、環境再生事業に有効な計画技術となる。
市民意識調査の結果、流域住民は現状の勝納川の環境を比較的よく認識しており、水質などの環境改善の必要性や親水性に乏しい河川であると低く評価している。再生事業計画については自然環境や活動空間に対する評価が高く、日常性のある親水空間が新たに確保されることへの期待が評価に現れているものの、水質改善に対する評価は低いものであった。AHP法による水辺利用に関する価値観については、【川のきれいさ】>【水辺の環境】>【景観】>【施設整備】>【身近さ】という選好順序が全体として把握された。さらに、AHP法による重要度(ウエイト)に基づきサンプルのセグメンテーションを行い、価値観の違いによる評価の差について分析を行った。その結果、住民に明らかに価値観が異なるグループが存在することが確認でき、この価値観の異質性が現状評価と計画評価に影響を及ぼしていることも確認できたことから、今後の合意形成に必要となる市民意識の集約にはこうした情報も加味すべき必要があると考えられる。
小学生を対象とした調査では、子供の遊び空間としては「自分の家(部屋)」、「友達の家(部屋)」が多く、次いで学校や公園となっており、学年が下がるほど公園が多く、学年が上がるほど自分・友達の家、学校が多くなる傾向が確認された。他の研究例との比較により子供の遊び空間については地域の公園整備状況が影響していると考察でき、公園が少ない地域では学校が代替されていると考えられた。子供たちを取り巻く空間において自然空間は危険な所や嫌いな所として認識されていることが確認され、自然の中で遊ぶ技能が受け継がれていないため日常生活において自然空間が位置づけられていない様子が窺われた。また、勝納川は小学生にとって認知されて入るが、行動の対象となっていないことが示唆され、勝納川が身近な存在ではなく、特別に意味づけされた空間となっている可能性は見出せなかった。これらの結果から、河川整備においては子供たちの河川との関わり方が極度に限定されない物理的環境の整備が必要と判断できるが、同時に危険性も増大するため危険回避能力を身につけるシステムも重要となることが示唆できた。
勝納川の水質汚濁の特徴が大腸菌群数にあることが確認され、水源地より下流域の住宅地域が発生源であり支川経路で本川の水質汚濁をもたらしていることが確認された。勝納川の水質は水浴場水質判定基準に照らすと水浴不適となり、勝納川再生事業において親水性を確保するためにはこの水質改善が必要不可欠であると考えられる。その対策としては汚染源が工場・事業所排水と家庭の雑排水であると考えられるため、下水道の整備拡大と工場・事業所の上乗せ排水基準の設定が対策として可能であるとした。ただし、これには小樽市の積極的な水質改善への姿勢が必要不可欠となっている。

今後の展開

市民意識調査や子供対象の分野においては、今後具体的な施設整備内容と意識の関係性について研究を進めていくことが重要となっている。これは河川整備事業の波及効果が単に市場経済効果だけでなく子供や地域住民の情操を育む効果を持つことから、豊かな地域社会の育成にも波及するためである。さらに、本研究でも提案しているように、植物など自然が持つ浄化機能や循環機能を利用することにより、これまでの土木技術で発生させていた環境破壊や環境負荷を軽減できる技術を導入することが今後重要となる。ある地域の環境保全のため、他の地域で環境破壊が生じることのないような技術開発が今求められている。自然科学の分野では、地域の自然を破壊せず、逆に地域の自然資源を利用した環境保全技術を研究することになる。一方、社会科学の分野では、そうした技術の認知と価値判断が環境の理解と保全行動への結びつきを解明すること、自然科学の情報に裏づけされた対策の制度的な対応の必要性を行政に訴えることで、効率的な事業展開と環境保全に資する情報を提供できると考えている。