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医薬資源としての北方系未利用植物成分の探索と開発
森田 博史[北海道大学大学院薬学研究科/助教授]
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背景・目的
地球規模での生態系の保護が叫ばれる中、限られた生物資源を最大限に有効活用することが必要であり、北海道においても未利用植物資源の調査、研究が必要とされている。生物活性の中で特に、抗がん剤開発の一つの方向としていかに効果的にガン細胞の分裂を停止させるかが重要な研究課題の一つになっている。
このような観点から本研究では、創薬の原点となる有用物質を北方系の未利用植物資源に求めるものであり、チューブリンをはじめとする生体機能を解明するための道具としても大いに貢献することが期待される。
内容・方法
北海道には北方系特有の植物が多数知られている。有毒植物として有名なトリカブトはアジア寒冷地に古くから矢毒として用いられると共に附子(ぶし)または鳥頭(うず)として医薬にも用いられ、現在もさかんに使われている。他にも、北海道には北方系特有の有毒アルカロイド含有植物が多数知られている。本研究では、北方系特有の未利用植物からの新たな天然薬物の開発と応用が大きな目的であり、この課題に焦点を当てて研究を行った。特に、医薬資源として重要な新規骨格を有する植物成分に着目し、新たな医薬のリードとして捉え探索研究を行うと同時に、生体機能を解明するためのツールとしても開拓した。
具体的には、北方系特有の未利用資源植物の調査を行うと同時に、市販生薬より得られた抽出物に対して、チューブリンに対する重合阻害活性を指標にして活性物質を単離し、構造および立体構造の解明を中心に検討した。
結果・成果
北海道内で採取可能な北方系植物をはじめとして、購入可能な和漢生薬についてメタノールにて抽出物を調製した。得られたメタノール抽出物に対して、チューブリンに対する重合阻害活性を指標にして活性試験を行い、良好な活性を示す抽出物を選定した結果、ノゲイトウCelocia argentea種子の抽出物に強い活性を見出した。
チューブリン重合阻害活性を指標として、n-BuOH可溶性画分をポリスチレンのイオン交換カラム、HP-20により60%メタノール溶出画分のアミノシリカゲルクロマトおよびC18のHPLCを駆使して活性成分を単離し、構造を解析した結果、すでにシソ科Laportea moroidesより単離、構造の報告のある2環性の環状ペプチド、モロイジン(4)であることが明らかになった。モロイジンはブタ脳由来のチューブリンに対して、IC503μMで強い重合阻害活性を示した。
次に、活性発現に関与する構造因子を明らかにするために、α-キモトリプシンによる酵素分解反応により単環性アナログ(7)を誘導化し、チューブリン重合阻害活性を調べた結果、モロイジンと比較して1/10程度の弱い活性が観測された(IC5020μM)。また、グアニジル基あるいはカルボキシル基の官能基と活性との関係を明らかにするために、グアニジル基をピリミジン誘導体に変換したアナログ(6)、またカルボキシル基をメチルエステル誘導体に変換したアナログを合成し(5)チューブリン重合阻害活性を調べた結果、モロイジンと比較して若干活性の低下がみられるもののかなり強いチューブリン重合阻害活性を示した(IC505.0μM)。
さらに、モロイジン関連化合物として含有される微量の活性化合物をチューブリン重合阻害活性を指標として探索した結果、Celogentins A〜C(1-3)と命名した3種の新規化合物を単離した。
Celogentin A(1)は各種機器分析データよりモロイジンの構造と比較してGly残基が欠損していることが判明した。Celogentin B(2)は、アミノ酸分析によりCelogentin Aの組成に加えてHis 1モルが多く検出され、Celogentin AのHis7にHis8が結合した構造であると帰属した。Celogentin C(3)は、アミノ酸分析によりGlu、Leu、Val、Arg、His、Pro各1モルずつを含むペプチドと推定され、スペクトルによる解析よりその構造を解明した。
今回、新たに単離、構造決定した3種の新規環状ペプチドのチューブリン重合阻害活性を調べたところ、celogentin C(IC500.8μM)はmoroidin、vincristineを上回る、強い重合阻害活性を有することが明らかとなった。
今後の展開
今回の結果は、新たな抗がん剤開発のリード探索のためのシーズを提供したと考えられるが、より必要なことは生物現象上極めて重要な有糸分裂において中心的役割を担うチューブリンの重合のメカニズムを明らかにするための新しいタイプの分子ツールを提供したことである。今後、作用機構について詳細に検討するとともに、抗腫瘍活性も調べる予定である。Celogentin類(1-3)、moroidin(4)は、新しいタイプの抗がん剤のリード化合物として注目され、より優れた薬理学的プロフィールを有するアナログデザインに関する検討が期待される。
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