看護を数量的データとして分析するための技術開発研究

齋藤 いずみ(北海道医療大学看護福祉学部看護学科母子看護学講座/助教授)
石若 令江(北海道医療大学博士前期課程看護福祉学部看護学科)      
津田 万寿美(北海道医療大学博士前期課程看護福祉学部看護学科)     
丸山 紳子(北海道医療大学博士前期課程看護福祉学部看護学科)      
伊藤 道子(北海道医療大学博士前期課程看護福祉学部看護学科)      
本山 博恵(札幌社会保険総合病院産婦人科/婦長)            
荒川 美和子(札幌社会保険総合病院/総看護婦長)            

背景・目的
 医療費抑制傾向にある現在、効果的かつ効率的な医療や看護の実施のために、また、医療事故を防ぎ医療の質を保証するためにも、医療評価の確立は緊急課題である。我が国でも、ようやく第三者による医療評価が開始されたが、評価方法は確立されていない。
 医療や看護を評価するためには、実施された行為を客観性のあるデータとして情報公開し、多方面から分析、検討されることが必要である。しかし、現在のところ医療や看護行為を評価するために必要なデータ作成方法すら確立されておらず、適切な医療評価が難しい状況にある。
 本研究では患者の入院生活に最も長時間、密接に関わる看護に着目し、臨床で実施されている看護行為を客観的に分析・評価するための手法を開発すること、また患者の疾病や重症度の違いによる看護の変化を数量化することを目的とする。
内容・方法
 先行研究の多くは、病棟全体の看護業務量測定に関心がおかれてきたが、患者の状況に即した看護に還元できていないのが現状である。本研究では患者に実施される看護の正確な測定に着目した。また、正常分娩であれば、分娩経過や時間はほぼ医学的に明らかにされており、概ね24時間以内に看護が終了するため、定型化しやすいと考えた。そこで分娩時の看護に焦点を絞り、看護時間と看護項目を正確に測定し分析する。
・産婦人科に入院後、分娩第1期から分娩第4期までの産婦に対し、助産婦や看護婦が実施した看護時間と看護項目を、1分単位のマンツーマンタイムスタディ法により日本看護協会の看護分類を元に齋藤が作成した「分娩時の看護観察分類」に従い正確に測定する。
・初産婦の正常群・異常群 経産婦の正常群・異常群のデータを収集する。
・一日を1440分として、看護項目番号を時系列に従い入力し統計分析する。
・現状の分娩時の看護を数量的に表現可能か、初産婦・経産婦また正常群・異常群の特性を数量的に表現可能か、臨床の看護を反映した情報か、などを検討する。
・本研究の改善点と臨床応用の可能性について検討する。
結果・成果
 総合病院の分娩室に入院した産婦に対し、充分なインフォームドコンセントを実施し、了解の得られた産婦に分娩第1期から分娩第4期までの看護をマンツーマンタイムスタディ法を用いて看護項目と看護時間を観察測定した。測定は、測定方法の訓練を受けた助産婦、看護婦によって実施された。分析可能な事例は初産婦19名、経産婦29名の計48事例であった。母体、胎児、分娩経過のいずれかに異常のあった異常分娩の割合は初産婦の19名中3名、経産婦48名中9名であった。本研究における全事例の入院後分娩第1期から分娩第4期の看護時間の平均は455分、初産婦の平均は517分、経産婦の平均は417分であった。初産婦の正常群の平均は477分、初産婦の異常群の平均は731分、経産婦の正常群の平均は341分経産婦の異常郡の平均は566分であった。分娩時の看護時間に影響する要因として初産婦・経産婦の違い、正常・異常の違い、さらに分娩誘発の有無、分娩誘発の開始時期が大きく関与していた。改善が必要と思われる、長時間看護時間を要している項目は、記録、準備後片付などであることが明らかになった。
 正確な看護項目と看護時間の観察データから、これまで経験的に考えられてきた、初産婦は経産婦より看護時間は長い、異常群は正常群より看護時間が長いということを本研究により実証できた。齋藤の先行研究を裏づけるものであった。また誘発分娩は通常であれば分娩経過が早く看護時間が短くなると予測されるが、本研究では誘発群の方が看護時間が長いことが明らかになった。医学的適応の検討、看護管理上安全な誘発分娩をするための看護人員の確保、誘発開始時期の決定などが課題として明らかになった。
 これまで看護は看護管理体制や看護人員配置を、患者の状態や疾病になどにより臨機応変に対応することなく、不足した人員の中でもいかに看護業務をこなしたかが重要であった。しかし医療事故が頻回に発生する現在、正確な看護の実証データに基づき看護管理者は、患者の人数や疾病や重症度を把握した上で、安全な看護を提供するための看護人員を確保すること、同時にいかに効率よく看護婦や看護助手を配置し、他の職種での代替可能な業務の確定などが必須課題であることが本研究データから明らかになった。
 本研究テーマである「看護を数量的データとして分析するための技術開発」としてタイムスタディ法を用いて看護を数量的に表現することは可能であり、看護は数量的に評価分析可能であることを示唆する結論であった。
今後の展望
 わが国の分娩時の看護管理上の問題点として、分娩室の多くが産婦人科病棟や混合病棟に付随していることから、分娩中に他の患者の看護や入院、緊急事態発生などに対応しなければならず、分娩時の看護に集中できないという事実が本研究から明らかになった。今後は助産婦や看護婦が分娩中に並行して何の看護項目を何分実施しているかをデータ化することにより、データに基づく安全と看護の質の保証に、研究を通じて貢献したい。その手法を他分野の看護に一般化したい。