バイオガスからのクリーン水素等の革新的製造技術開発と高度利用

市川  勝(北海道大学触媒化学研究センター触媒設計化学分野/教授)    
福岡  淳(北海道大学触媒化学研究センター触媒設計化学分野/助教授)   
大西 隆一郎(北海道大学触媒化学研究センター触媒設計化学分野/助手)   
王  林勝(北海道大学触媒化学研究センター触媒設計化学分野/外国人研究員)
小野 信一(鞄本製鋼所室蘭研究所/主幹研究員)             
伊藤 秀明(鞄本製鋼所室蘭研究所/主任研究員)             
相澤 大器(鞄本製鋼所室蘭研究所/研究員)               
吉田  忠(北海道工業技術研究所/室長)                 

背景・目的
 北海道大学触媒研究センター市川研究室において最近開発された天然ガスを用いてクリーン水素と有用な石油化学原料であるベンゼン等とを併産する高効率の触媒変換技術を、有機性廃棄物のメタン発酵により得られるバイオガスに適用することができれば、各種有機性廃棄物処理における問題解決の一手段となるだけでなく、環境有機資源のリサイクルによる有効活用、さらにはクリーンエネルギー化学産業の創出と北海道地域産業振興に資することができる。
 本研究開発の目的は、この環境有機資源を利用する新しいエネルギー生産技術の有効活用に向けての設計、技術確認、プロセス経済評価等の要素技術の研究開発と、実用化に向けての指針を得ることにある。
内容・方法
 バイオガスを本研究の核となる触媒変換技術へ適用するにあたり、バイオガスに含まれる触媒に有害な微量成分の有無及び含有量を把握するため、乳牛糞尿、及び疑似生ごみとして8wt%濃度のドッグフード水溶液を用いたメタン発酵により生成したバイオガス成分の詳細分析を実施した。
 バイオガス中の二酸化炭素除去技術の一つとしてアルカリ吸収法を取り上げ、6mol/l濃度の水酸化カリウム水溶液を用いたメタン濃縮実験を実施した。
 乳牛糞尿メタン発酵により生成したバイオガスに、二酸化炭素濃度が2vol%になるように純メタンガスを混合した調整バイオガスを用いて触媒反応実験を実施した。また、疑似生ごみメタン発酵バイオガスを上記アルカリ吸収法によって二酸化炭素を除去した濃縮バイオガスを用いて触媒反応実験を実施した。これらの結果と純メタンによる触媒反応結果との比較によりバイオガスの触媒への被毒性を検討した。
結果・成果
 乳牛糞尿、及び疑似生ごみとして8wt%濃度のドッグフード水溶液を用いたメタン発酵により生成したバイオガスはどちらもメタン濃度が55〜65%の範囲であり、メタン発酵において一般に言われる値と同等のメタン含有量であることを確認した。触媒反応に悪影響を及ぼすことが予想される成分としては二酸化炭素、一酸化炭素、酸素及び硫化物が考えられたが、硫化物についてはいずれのバイオガスもメタン発酵装置に付帯する脱硫装置を通過しているため、硫化水素をはじめとする硫化物は検出されなかった。また、一酸化炭素についても検出されなかった。酸素が検出されたがごく微量であり影響はないと判断された。したがって、バイオガス中に35〜45vol%濃度で含有する二酸化炭素を5vol%程度以下にまで除去することによって、バイオガスを触媒変換技術へ適用可能であることが判明した。
 原料ガスを強アルカリ溶液に吹き込むことにより二酸化炭素ガスを炭酸イオンとして液中に吸収除去するアルカリ吸収法によって、バイオガスからの二酸化炭素除去を試みた。6mo1/1濃度の水酸化カリウム水溶液を充填した500ml容積のフラスコ2個に、疑似生ごみメタン発酵バイオガスを0.17l/minの供給流量で直列に流通させ、さらに純水を充填した500ml容積のフラスコを流通させて水洗した。このようなアルカリ吸収処理により二酸化炭素濃度を0.2vol%にまで除去することができ、メタン濃度98vol%の良質な濃縮バイオガスを得ることができた。
 乳牛糞尿メタン発酵バイオガスに、二酸化炭素濃度が2vol%になるように純メタンガスを混合した調整バイオガス、及び疑似生ごみメタン発酵バイオガスを上記アルカリ吸収法によって二酸化炭素を除去した後、二酸化炭素濃度が2vol%になるように二酸化炭素を添加した濃縮バイオガスを用いて触媒反応実験を実施した。6wt%のモリブデンをメタロシリケート担体であるZSM-5に担持した触媒を充填した触媒反応容器に、バイオガスを触媒1gあたりの供給流量としてSV=3,000ml/g-cat./hで供給し、容器内圧力3atm、温度720℃で触媒反応を行わせた。バイオガスを純メタンガスで混合希釈した場合、及びバイオガスから有害成分のみを除去した場合のいずれにおいても、純メタンガスを原料とした場合と比較して遜色のない触媒性能を示しており、バイオガスによる触媒の被毒は認められなかった。
 以上のように、平成11年度研究開発成果として、本件触媒変換技術によりバイオガスを原料としてクリーン水素と有用な石油化学原料であるベンゼン等とを併産することが可能であることを実証した。
今後の展望
 より低コストなバイオガスからのメタン濃縮システムの確立、触媒反応ガスからの水素精製・回収技術の開発及び触媒スケールアップによって実用化をはかり、クリーンエネルギー化学産業の創出と北海道地域産業振興に資する。