日本人の股関節骨格形態に適合した人工股関節の研究開発

松野 丈夫(旭川医科大学医学部整形外科/教授)
伊藤  浩(北海道大学医学部整形外科/助手) 
勇田 敏夫(北海道大学/名誉教授)      
加藤 久仁彦(潟トウ/医療企画部部長)   

背景・目的
 人工股関節の進歩により股関節疾患の治療は格段に進歩したが、人工関節の弛みの原因に関してはいまだ解決していない。我々は過去10年間に亘り生体医工学的に研究を重ね、現在使用されている人工股関節の機種の多くは外国製で日本人の骨格に十分適合していないこと、製品の加工精度が悪いことなどの問題点を明らかにしてきた。平成10年10月から、我々は日本人の体型に合い加工精度の優れた人工股関節を開発している。本研究は日本人の股関節形態を詳細に解明して、耐用年数の長い日本人患者に理想的な人工股関節の開発を目的としている。
内容・方法
 旭川医科大学整形外科および北海道大学整形外科において、患者の大腿骨全長CTを撮影した。データ転送システムの端末において撮影したCTデータをDICOMフォーマットでMOディスクに保存し、このデータをパーソナルコンピューター上にて画像解析ソフトを利用し皮質骨の外形、内形の輪郭を抽質してフォーマット変換ソフトを用いサーフェイスを作製した。このデータを3次元CADにて各種計測を行った。対象は現在までCT撮影を終えた16股で、いずれも二次性股関節症の症例である。今回はこの16股の内、モデリングを終了した8股に関して各種計測を行った。3次元モデルから、小転子近位20mm、小転子頂部、小転子遠位20mm、峡部に軸に対して垂直となる断面を作製し、内外・前後長、峡部位置、各断面における最大長さ、捻れ角度(major axial angle)、内側長さ・内側長さ比を計測し、検討した。
結果・成果
 今回計測した計測値の平均と我々の使用しているセメントタイプの人工股関節であるハリスプレコートステムの中間的な大きさのMサイズとをセメントマントル厚を考慮して比較してみると、ハリスプレコートステムの最遠位断面の内外長が8.8mmで前後長が7mmであり、これにセメントマントル厚を2mmとるとするとその部位の髄腔は最低限内外側12.8mm、前後長11mm必要となる。今回の計測において峡部位置が小転子から平均値111.625mmであった事を考慮すると、必要な長さを峡部の髄腔の内外長は満たしていない事になる。更に今回の計測では内側長さといった項目を計測したが、ハリスプレコートステムにおいては近位から65mmの断面の寸法は内外長が12.55mmで、軸からの内側の距離はその半分であるから6.3mm程度であり、更に再度セメントマントル厚を2mmとすると今回の65mm部位では髄腔の内側長さが最低限8.3mm必要となる。しかし今回の計測では、この部位における内側長さが平均で5.681441mmであった。これらは過去の報告に見られるように亜脱臼性股関節症の大腿骨では髄腔が狭いといった事を示していると考えられるが、どちらの断面においても明らかにハリスプレコートステムMサイズは大きく、日本人の大腿骨形状を反映していないと言える。又、小転子部においてはハリスプレコートステムは内側長さに相当する部分の長さが17mmであり、これに再度セメントマントル厚2mmを加えると19mmにもなり、今回の計測においてはその部位に相当する髄腔の内側長さが平均で11.76014mmしかなかった。これは過去の報告に見られるように大腿骨の近位内側のカーブの曲率が急峻であるといった事を反映していると思われるが、この事もハリスプレコートステムが日本人の大腿骨形状に適合していない事を示す結果であると考えられた。
 したがって明らかにアメリカで作製されたハリスプレコートステムのサイズは欧米人に比べて小柄で、亜脱臼性股関節症といった大腿骨の変形を伴う日本人患者にとって適切な大きさではなく、大腿骨の形状を反映しているとは言えなかった。
 以上の事から日本人の実際に股関節の手術を受ける患者のデータを基にした十分な3次元の計測が必要であり、これらのデータの蓄積は日本国内のメーカーにより、日本人に広く適合する人工股関節の製造・販売につながる非常に有用なデータとなると考えられる。今回使用した方法を用いる事により3次元的に大腿骨の形態を計測し、新しい日本人向けの人工股関節開発への必要なデータを得る方法を確立しえた。
今後の展望
 CTデータから3次元のモデル構築を行う事によって空間的な3次元の非常に有用なデータを得る事が可能であったが、現在まで撮影を終了した症例数が16例とまだ信頼性の高い平均値を出したり、その計測値によってグループ分けが可能である状態までは達していない。従って、今後は100例以上を目標として、症例数を集めその解析を行い信頼性の高い平均値を求め、更にはその計測値からグループ分けを行いたい。今後、応力解析と最適化設計とを計測にあわせて行う事によって更に理想的な弛みの無い、耐用年数の長い人工股関節が製造可能であると考えられる。