酵母を用いたバイオアッセイによる癌関連遺伝子の診断法の開発

守内 哲也(北海道大学遺伝子病制御研究所癌関連遺伝子分野/教授)
外木 秀文(千歳市立病院小児科/医長)             
多田 光宏(北海道大学遺伝子病制御研究所癌関連遺伝子分野/講師)

背景・目的
 出芽酵母のゲノム解析プロジェクトは1996年に完了しており、出芽酵母の研究は他の生物に先駆けてポストゲノム時代を迎えている。特に、医学研究分野における酵母の利用価値は著しく高まっている。本研究では、昨年度の酵母を用いた大腸癌抑制遺伝子APCの変異検出法をさらに普遍化して、1)どのような遺伝子のストップ・コドン検出にも対応できる汎用型ストップコドンアッセイ法を完成させ、そして新たに2)次世代型の遺伝子機能診断法の基礎となる癌抑制遺伝子ネットワークの酵母内再構成を行い、試作品を作製することを目的としている。
内容・方法
1)汎用型ストップコドンアッセイの開発と応用
 我々は、従来の酵母アッセイの確立の過程で最も時間を要する専用ベクターの作成をおこなわずに、複数の遺伝子領域に一つのベクターで対応できるアッセイを考案して汎用型ストップコドンアッセイとして開発した。被検DNAを増幅する際に、相同組換えに用いる24塩基の汎用配列が両端につくようにPCR増幅し、汎用配列をもつ線状化ベクターと共に酵母内に導入して24塩基の汎用配列間で相同組み換えをおこさせた。
2)大腸癌抑制遺伝子APCのネットワーク再構成による機能的遺伝子診断法の開発
 β-カテニン、TCF4、APC、およびAXIN の各遺伝子を 酵母発現ベクターに組み込み順次発現させた。そしてどの組み合わせでネットワークが再現されるかを調べた。
結果・成果
1)APCに対する既存のストップコドンアッセイとの比較
 大腸癌細胞株COLO201(正常APC)では赤コロニー率4.9%(既存法:Furuuchi et al.)に対し8.9%(本法: 汎用型)、DLD1(1414:GGC→GG)で97.7%(既存法)に対し99.1%(本法)、SW480(1338:CAG→TAG)で99.3%(既存法)に対し99.5%(本法)とほぼ同じであった。
(2)hMSH6でのストップコドンアッセイについて
 赤コロニーの率は癌細胞株HCT15で55.9%、HCT116で8.9%、HT29で10.1%、HCC2998で7.6%、KM12で9.8%であった。HCT15の値は片方の遺伝子のコドン222の1塩基欠失によるものであった。
(3)相同組み換えに必要な適正な汎用塩基配列の長さについて
 バックグラウンドとしての赤コロニー率は、4〜12%で18塩基、24塩基、30塩基、39塩基汎用配列を用いた場合、いずれも有意な差はなかった。
考察:これまで対象となる1遺伝子領域に対して1つの専用ベクターが必要であったが、汎用型ストップコドンアッセイが開発されたことで簡便性、経済性、迅速性をさらにすすめることになると考えられる。この成果は特許として申請中である(特願2000-93016)。
2)大腸癌抑制遺伝子APCのシグナル経路再構成とその医学的利用法の開発
 β-カテニン、TCF4、APC、およびAXIN の各遺伝子を 酵母発現ベクターに組み込み順次発現させた。その結果、酵母の系では、TCF4とβ-カテニンとAPCの3者の発現でネットワーク経路が再構成され、AXINは必要ではなかった。哺乳動物細胞では大腸癌抑制遺伝子APCのネットワークにはAXINが必要と言われているので、酵母にAXINの代理をする遺伝子が存在するのかも知れない。
今後の展望
 ストップコドンアッセイについては、汎用型ストップコドンアッセイの完成によってほぼ終了した。この成果は特許として申請中で(特願2000-93016)事業化が今後の課題である。遺伝子ネットワークの再構成は、癌遺伝子および癌抑制遺伝子などの蛋白機能の異常を酵母の色彩変化で簡便・高感度に検出できる検査法として有用なだけでなく、ポストゲノム時代の遺伝子機能の解析にも応用できる技術として発展が期待される。