片麻痺患者の坐位安定用具の開発 |
|
高橋 光彦(北海道大学医療技術短期大学部/助教授) 斎藤 展士(北海道大学医療技術短期大学部/助手) 富永 淳(愛全会愛全病院地域リハビリセンター/センター長) |
|
|
| 脳血管障害片麻痺患者の病状の一つに運動麻痺があげられる。特に脳卒中急性期において、運動麻痺により頸部・体幹・骨盤帯の支持性が低下している場合、正常な坐位姿勢の保持が困難となる。このため、骨盤後傾位で仙骨による体重支持も行い、臀部での健側支持姿勢となる。骨盤後傾位と健側座骨支持では不安定のため、さらに健側上肢も姿勢保持に用い、不良肢位で坐位を保持することとなる。脳卒中片麻痺患者の坐位は健側支持の傾向があり、このため立位になっても健側支持傾向になることが多い。急性期から早期に坐位での両側の座骨に均等に体重を負荷することは重要である。しかしながら、急性期における坐位保持は骨盤が後傾位で健側支持になりやすいため、骨盤を垂直位にし、なおかつ体幹も介助するためには技術が必要となる。片麻痺患者において坐位が安定することは、リハビリテーション訓練において非常に重要なことである。坐位の訓練を行うときに骨盤及び体幹を支持しなくてはならない場合は坐位での骨盤安定が出来ると体幹の安定を図る訓練が容易に行える。本研究は坐位姿勢において骨盤部を安定させる補助用具を開発することを目的とする。 | |
|
|
| 試作する坐位安定用具は厚さ1°の木板を加工して、左右の可変式腸骨サポートパーツと底部パーツからなる。可変式腸骨サポートは12cm×15cmの板を前額面より45°の角度にして、蝶つがいで底部パーツに固定する。可変式腸骨サポートの可変角が45°〜90°の角度調整金具を取り付けた。可変式腸骨サポート間の距離は14.5°とした。底部パーツの大きさは前面36°、奥行き21°である。可変式腸骨サポートと底部サポートでの垂直圧力成分を測定するために、超小型圧力変換器(PS-2KASF3:共和電業)を左右の腸可動式骨サポート上中央部と底部サポート座骨部の4箇所に設置した。厚さ2mmのコルク板でセンサー部分が露出するようにカットして、可変式腸骨サポートと低部サポートに張り付けた。超小型圧力変換器への印加電圧は2ボルトの直流電圧を安定化電源回路から供給し、ブリッジ回路からの出力をDCアンプ(ポリグラフ:日本電気三栄)で増幅させて、データーレコーダーに保存する。保存したアナログデーターはAD変換し、PCに取り込み、各センサーの荷重量を求める。可変式腸骨サポートの角度を80°にして、坐位安定用具を重心動揺計(グラビコーダー:アニマ製)の上に設置した。重心動揺計は同等の大きさの板を用意し、この板の上に置いた。被験者は重心動揺計の上に坐り20秒の坐位を行い、重心動揺面積、重心軌跡長を計測する。ついで、重心動揺計の上に、坐位安定用具を設置し20秒の坐位を保持し同様の測定を開眼と閉眼でランダム行う。重心動揺計の解析項目は総軌跡長、矩形面積、外周面積である。試作した坐位安定板の強度、触感、センサー感度を検査して、重心動揺計の上に設置して、摩擦安定性、坐位保持性を試験する。坐位安定用具の安全性と測定方法の確実性を評価する。安全性が確認できた後、片麻痺患者さんに対して測定を行い、比較検討をする。 | |
|
|
|
坐位安定用具の安全性と安定性の試験は体重78キロ、身長175°の被験者で行った。被験者は坐位安定用具に座り、坐位姿勢を保持しながら、可変式腸骨サポートへの後方と左右への寄りかかりを行い、負荷試験を行った。坐位安定用具の本体やボルト固定部分や超小型圧力変換器の緩みや破損は見られなかった。また、重心動揺計の上に坐位安定用具を置いてのテストでは滑りは見られず、計測が行えた。しかしながら、体重移動時の超小型圧力変換器の電圧変化は1ミリボルト以下の変化(112kPa以下)で荷重負荷量と相関が見られなかった。これは圧力変換器のセンサー部分の直径が7ミリで中央部がやや窪んでいること、センサー個数が少ないため、圧力点が移動した場合、関知できない点が上げられる。坐位安定用具に座わり、可変式腸骨サポートに寄りかかったままで、角度調整金具による角度調整は軽度な力で行えた。健康成人3人で再度坐位安定用具の安全性をチェックした。坐位姿勢で後方に倒れる場合は可変式腸骨サポートが背部に当たるため、過度の後方伸展には注意が必要であることがわかった。また、前方制動性はないため前方転倒にも注意が必要である。まず、坐位保持可能な2名の片麻痺患者の測定を行った。 症例1 女性、69歳、左片麻痺、発症後2年、坐位、歩行可能、に対して本装置を用いて測定を行った。坐位安定用具を用いて、開眼・閉眼で各々20秒測定した。その後、坐位安定用具をはずして、オフセットしてから開眼・閉眼で測定を行った。なお、開眼時は2メートル先のホワイトボードにかかれた黒点を見るように指示した。重心動揺計の標準解析項目では、総軌跡長(cm)、矩形面積(cm2)、外周面積(cm2)を計測した。開眼+坐位安定用具では、10.23、0.11、0.42、閉眼+坐位安定用具の場合は、10.93、0.06、0.37であった。開眼では、9.45、0.55、3.18、閉眼の場合は、7.1、0.1、0.37であった。 症例2 女性、63歳、左片麻痺、発症後1年3ヶ月、坐位、歩行可能総軌跡長(cm)、矩形面積(cm2)、外周面積(cm2)のそれぞれの値は、開眼+坐位安定用具では、7.4、0.03、0.11、閉眼+坐位安定用具の場合は、8.7、0.03、0.08であった。開眼では、8.54、0.04、0.11、閉眼の場合は、8.21、0.03、0.11であった。 症例3 男性、75、左片麻痺、発症後1年、坐位保持不可、補助しての坐位では前後の動揺が激しい症例。重心動揺計の上には座ることが困難なため、マット訓練台に坐位安定用具を置いて、症例を介助して座した。正しい位置にセットすると10秒間座ることが可能であったが、スパズム様の体幹の前後運動が出現すると介助せざるを得なかった。重心動揺計では坐位安定用具を用いると開眼閉眼状態において矩形面積、外周面積が減少か同等の数値を示し、姿勢の安定性に寄与することが示唆された。この3症例とも坐位安定用具の使用後の感想は体幹が安定することを述べていた。 |
|
|
|
| 坐位保持を行うときの骨盤固定は臨床では療法士の両膝で骨盤を固定したり、砂嚢を置いて行っているが、固定しづらく、筋力を必要とするし、大きな砂嚢は用意できない。このため使える坐位保持用具の開発は重要である。今回の試作品はプロトタイプであり、試作を繰り返しテストを行わなければならない。可変式腸骨サポートの形状は蝶板固定を移動式固定に切り換え、素材については体型にフィットしやすい弾力性のある素材を使用することが考えられる。坐位安定用具は病院の治療テーブルの上に設置できる形状にし、さらに小型化し車椅子上でも正しい姿勢の保持が行えるような補助具の開発が望まれる。そのためには被験者数を増やして、効果判定を行わなければならない。今回、圧力変換器での荷重量の測定が困難であったため、マット式で複数のゴムセンサーによるデーター収集を行う測定方法が有用と考えられる。また、小児用の坐位安定用具を試作して、データー収集を行う予定である。坐位安定用具が坐位保持訓練に有効となりうるようさらなる改良を加えていく予定である。 |
|